非常に間口が広く、どんな人でも楽しめる。
魅力溢れるドラマが展覧会になった
大河ドラマ「西郷どん」。かなり楽しんで見ています。自分の中では西郷どん(鈴木亮平)が奄美大島に渡って二階堂ふみ扮する愛加那(あいかな)と生活を共にする辺りから、ドラマの視聴者惹きつけ度がワンランクアップした気がします。奄美から西郷どんが去る別れのシーンなど、「かつて大河ドラマでこんなにも切なさ溢れるシーンなどあったろうか…」と自問してしまったほど。胸が苦しくなるほど良いシーンでした。次回(7月8日放送)は吉之助がいよいよ歴史の大舞台に登場して来る。激アツな歴史の展開点で西郷どんがどんな活躍を見せてくれるのか、本当に楽しみです。
さてその大河・西郷どんが展覧会になったという。「西郷どん」のフィクションの世界は一体どんな事実・証拠を基に組み立てられているのか。これは見ねばなるまい、ということで行ってきました。
土曜日の午後 割と混んでいた
訪問したのは7月7日(土)午後。土曜日という曜日の関係か、はたまた東京での会期終了(7月16日)まで残り少ないからなのか、けっこう混んでいました。あと点数も相当あるので余裕を持って見ようと思えば鑑賞時間を2時間程度、考えておいた方が良さそうです。
どんな動機で訪れても楽しめる!
非常にバランスの取れた展覧会でした。例えばドラマの西郷どんが好きだから、そのドラマに関係する品々を見たい!という人ももちろん楽しめますが、「ドラマはそんなに見てないけど幕末史が好き!」という人にも、歴史の節目節目の重要な史料を目に出来て興味深いはず。美術工芸品が好き!という人にとっては、篤姫(のちの天璋院。北川景子が演じる)の大奥での生活が垣間見える衣装や調度品が楽しいでしょう。どんな動機を持って訪れても満足できる展示です。折に触れて戊辰戦争、西南戦争のポイントとなった地点が地図で紹介されていたり、東京、京都、大阪、鹿児島でのゆかりの地が写真付きの地図で案内されていることも理解を助けています。
惹かれたアイテムをいくつかご紹介
※写真は全て図録のものです。
幾つもある西郷どんの肖像画
西郷どんの肖像写真は1枚も残っていないと言われている。ゆえに複数の画家が西郷と会った記憶や、西郷と会ったことのある人からの聞き取りを基に肖像画を描いています。展示の一番最初に掲げてある「西郷隆盛肖像画」は庄内藩士が描いたもの。戊辰戦争の際、敵方であるにも関わらず庄内藩に対して徳のある振る舞いをした西郷隆盛。その西郷に対しての庄内の人のリスペクトを感じる一枚です。
じ〜っくりと見る価値のある斉彬の鎧
「伝島津斉彬所用 紫糸威鎧(むらさきいとおどしよろい)」。渡辺謙が演じていた島津斉彬の大鎧(おおよろい)と伝わっている一品。鎧などの古美術品に詳しくなくても「これはスゴイ品だわ…」と一見して分かるだけの迫力があります。小手の辺りの彫金の装飾などほんと素晴らしい。
解説によると、そもそも大鎧とは平安時代から鎌倉時代にかけて制作・使用された甲冑形式で、本来騎馬武者が着用するもの。それが歩兵戦に重きを置かれるようになるとこの形式は衰退していったのだが、江戸期に再び復古調のこういう鎧が好まれるようになったのだとか。平和な時代になって、再び美術的価値の高い鎧が好まれるようになったということなんでしょうね。
素朴すぎる木刀
西郷も含めた薩摩の下級武士たちが身につけた剣術、野太刀自顕流(のだちじげんりゅう)。 その稽古の際に使用した木刀が展示されていました。”野太刀”というだけに、装飾性を一切廃したいわば”ただの棒”。しかしその潔さが実に薩摩らしいと感じる。
島津斉彬が見つめていた世界
斉彬が使用していたドイツ製の世界地図。今見てもほぼほぼ世界(アジア)の陸地の形、国境等を正確に写し取っています。日本ではそれぞれの藩で「藩こそが一つの国」程度に思っていた人が多かった中、こんな正確な地図を眺めていた斉彬には、世界の中に置かれた日本の状況、そして日本が進むべき道がはっきりと見えていた気がします。
大奥の世界を垣間見る
斉彬や西郷が歴史の表舞台で走り回っていたとすれば、篤姫が過ごす大奥などはどちらかというとバックヤード。しかしこの展覧会はそのバックヤードでの女性たちの息遣いを感じられるアイテムも豊富に紹介されています(小箪笥、小袖など)。こちらは「奥奉公出世双六」。大奥の女性たちが、雑用係から大奥を取り仕切る最高権力者に上り詰めるまでを双六形式で遊べるという”大奥版人生ゲーム”。篤姫たちが江戸城の奥でこんな生々しい遊びに興じていたかと思うとたいへん面白い。
「激しく移り変わる時代だった」ということを知る
江戸から明治へ。何もかもが激しく移り変わっていったんだな…ということを感じさせる展示も。注目したのは西郷の軍服です。
元治元年(1864)禁門の変で長州を打ち破った功績で西郷が島津久光・忠義から拝領した陣羽織。そして明治6年(1873)千葉の習志野で行われた近衛兵の大演習で西郷が着ていたフランス風の軍服。わずか10年足らずの間に軍服がこんなにも変わっているんですね。このような大きな変化があらゆる分野で起こっていたんだろうなあ、と想像をたくましくしてしまいます。
最後に
「西郷どん」のドラマの世界に沿いつつも、当時を偲ばせるあらゆる分野のアイテムを集めた展覧会。ここに挙げたもの以外でも解説の長さ、深さもとても適切でよく練られており、この展覧会を見ておくと、これからの放送される「西郷どん」をより立体的に味わえると思います。東京での会期を終えると、大阪・鹿児島を廻るということなので、機会のある方はぜひ!
会期
- 東京@東京藝術大学大学美術館 5月26日(土)〜7月16日(月・祝)
- 大阪@大阪歴史博物館 7月28日(土)〜9月17日(月・祝)
- 鹿児島@鹿児島県歴史資料センター黎明館 9月27日(木)〜11月18日(日)