物質によって、建築は決定的に規定される
(展覧会冒頭の「ごあいさつ」より)
「くまのものー隈研吾とささやく物質、かたる物質」@東京ステーションギャラリーが無類に面白かった。
建築家・隈氏の作品を、使用されてい建築材料=物質という観点から読み解いていこうという内容。今まで意匠・デザインからしか見ていなかった建築を、建築材料に着目して見てみると、ここまでその味わい方が広がるものか、と正直驚いた。
また建築材料そのものと同時に、それらをどう組み合わせて一つの建築が成り立っているかについても語られているので、今後、建物を見るときに構造の面からも着目できるようになる。
しかもそれらの解説は建築家自身の魅力的な言葉で構成されている。建築家が一つ一つの材料をどう扱っているか、文章・写真・模型を通して理解を深めることで、隈研吾という建築家の建築哲学がじわじわと身体に染み通ってくる。この展覧会自体が「建築家・隈研吾」についての格好の"入門書"となっているのだ。
幾つか展覧会のポイントをまとめてみた。
※ちなみにオール撮影OKの展覧会でした。これはありがたかった!
物質と”対話”する建築家
展覧会はコーナーごとに一つの物質がテーマとして設定される。まず隈氏にがどのようにその物質を捉えているか彼本人の言葉によって語られる。例えば、冒頭で取り上げられる「竹」だと、このような言葉で。
竹は生まれながらにして直線で、その強い直線性は他の木にはない。幾何学に惹かれるのは建築家の癖のようなものなので、竹に引き寄せられた建築家は多い。
竹の直線性…。言われてみるとそうだが、建築家はやはり一般人とは違う目で物質を見ているのだ、ということが分かって興味深い。
「竹の直線性」は竹の魅力だが、一方で竹特有の弱点もあるという。再び隈氏の言葉。
20世紀、竹を本格的に使った建築はなかった。なぜなら、竹が乾燥すると割れて、構造材としては使いにくいからである。
この弱点を克服するために、一例として「乾燥しても割れない南米の特殊な竹(グアドゥアというらしい)」を用いて設計された、竹構造が特徴的な建築作品が紹介されている。それがこちらの「浜田醤油」。
この写真だけ見ると竹を複雑に組み合わせて、立体幾何のような意匠の作品を狙ったのかしら、 と思ってしまいそうになるが、その裏にはわざわざ南米から取り寄せた特別な竹の存在があったわけだ。
加えて、一番難しいジョイントの部分は樹脂を注入し、その後ボルトを使って、部材同士を縫い合わせたらしい。その部分も写真で紹介があった。
隈氏によれば、このような特別品質の竹を使い、かつジョイントを工夫したことで「意匠と構造の中間的存在作り出した」のだという。物質は必然的にある構造を呼び寄せ、当然その構造はデザインをも規定する。まさに物質によって、建築は決定的に規定されるのだ。
今、竹の一作品の例を挙げたが、このように展覧会はある物質について、隈氏がどういう魅力を感じているか、建築材料としての弱点は何か、それを克服するためにどういう独創・工夫が為されているかが語られつつ進行する。他の物質としては木、石、ガラス等、比較的建築材料として意識しやすいものから、紙や樹脂といった意外な材料まで取り上げられている。
その物質の魅力を語る隈氏の文章がまた魅力的。例えば、ガラスについての一文。
ガラスには厚みがあることが大事で、その厚みは、ガラスの端部=エッジで、突然に出現する。
物質を扱う時はその端部の扱いが一番大事で、そこで、物質の厚さ、重さ、固さなどがストレートに伝わってくる。なかでもガラスの端部は一番大事である。
確かにガラスは透明だから、ガラスの厚さを意識することは少ないけれど、ガラスのエッジを横から見れば、その厚さにギョッと驚くこともある。今度からガラスの建築に出会ったら、端部をじっと見てしまう気がする。無機質な物質に豊かなイメージを加える隈氏の文章が味わい深く、建築作品を見るのと同じくらい解説文を読むのが楽しかった。 建築家とは言葉を使わない詩人だな。
東京で、日本で、見られる作品群
それほど現代建築家に詳しくないので、自分の場合だけかもしれないが、こんなにも隈氏の作品が日本の街中(まちなか)で見られるとは知らなかった。
例えばこれは「ガラス」コーナーで紹介されている「ティファニー銀座」。
銀座のメインストリート(銀座通り)に面しているこの建物の前は何度も通ったことがあったが、これも隈作品だったのか。
解説ではこの建築においては「アルミをガラスにサンドイッチしている」「透過性が高く、しかも日射遮蔽効果も高い、サスティナブルサスティナブルな外壁ユニットを開発した」とある。ここまでの知見を得ておくと、外側からその建築デザインを味わい、中に入って材料による日光の遮蔽効果を確かめることができる。今度銀座に足が向いたときの楽しみが一つ増える。
こちらは「浅草文化観光センター」。
これはかつて東京でよく見られた木造平屋建てを8層集積したイメージらしい。集積する7つの「家」それぞれに300㎜の奥行を持つ木の格子を取付け、各層で格子のピッチ、角度を操作することで、それぞれの「家」が独立した存在と見えるようにしたという。
ガラスと木の格子の組み合わせが何ともクールだが、冷たくは感じないのは、木という物質を使っているからだろう。このデザインが浅草の街とどのように調和しているのか一度、見てみたい(調和していないかもしれないけど…)。
この展覧会を見たあとそのまま浅草や銀座に足を伸ばせば、一日で隈研吾・建築フィールドワークが完結する。なかなかに豊かな体験になりそうだ。
アクセス抜群のロケーション
この展覧会、写真のように東京駅の自由通路のすぐそばに入り口がある。駅直結という最強アクセスを誇るギャラリーなので、移動時間を全く使わずアートの世界に浸ることができます。
会期は「5月6日まで」と残りあとわずか。ゴールデンウィークの期間中、建築・アートが好きな人は鑑賞してみる価値がおおいにあると思います。ぜひ。
※公式ホームページです。
※森美術館で開催中のこちらの展覧会も楽しいです。
www.rekishitantei.com
※1964年国立代々木競技場の建築が素晴らしすぎて、隈さんは建築家を目指したらしいです。
www.rekishitantei.com
※隈作品の「石の美術館」。石を見る眼が変わりました…。
www.rekishitantei.com