歴史探偵

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1964年、日本は西洋の建築に追い付いた。

 

オリンピックと建築は切っても切り離せない。

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「感じる旅、考える旅。トランヴェール」と題されたJR東日本の新幹線の車内誌(無料でお持ち帰り可)がある。座席の前ポケットに入っているのでパラパラを見たことがある人も多いと思います。

その2018・5月号の特集「建築とデザインでたどるTOKYO1964」がとても面白い。1964年の東京オリンピックを期してつくられた東京の名建築が紹介されており、それらがどんな時代の空気の中で計画され、工事が進められていったのかが解説されている。

トランヴェールの文章を引用させていただくと…

この祭典(=1964年東京オリンピック)を機に、東京の街は大きく進化を遂げたといっても過言ではないだろう。中でも、建築やデザインの分野では革新的なものが生み出され、日本国内のみならず世界にも大きな影響を与えた。

経済のみならず、建築・デザインの分野でも当時の日本は右肩上がりだったのだな、と思う。同誌で取材協力されている建築史家の米山勇さんによれば

1960年代は、明治時代から西洋に追い付こうと努力してきた日本の建築が、デザインと技術の両面で一つの完成を見た時期

らしい当時の建築には、西洋を肩を並べることができた、という日本人の満足感やプライドがぎゅっと詰まっているのかも。

 

さて、同誌にピックアップされて紹介されている名建築は全部で4つ。順に概要だけまとめておきます。

 

国立代々木競技場

記事内では「20世紀を代表する日本建築の最高傑作」と紹介されている。第一体育館と第二体育館からなる。自分の職場のすぐそばなのだが、そこまでの傑作建築とは知らなかったなあ。デザインと建築技術を両立させたところが高い評価を受けている。

また同記事内に掲載されている建築家・隈研吾氏のインタビューによれば、国立代々木競技場は…

コンクリート特有の冷たさがなく、訪れる人の心に響くような建築である

コンクリートと鉄で作られた、20世紀の建築技術の集大成

だという。

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代々木第一体育館

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代々木第二体育館

デザイン面の特徴

彫刻作品のように優美なカーブを描く造形。

技術面の特徴

第一体育館は2本の柱をケーブルでつなぎ、広大な内部空間を生み出す吊り橋の技術を応用した”吊り構造”の技術で造られたもの。館内には柱が1本もない大空間が広がり、競技の集中できる環境が生み出されている。

選手を競技に集中させる、という機能を外観の美しさも含めて叶えてしまったところがすごい。見る角度によってフォルムがどんどん変化するので、建築のまわりをぐるりと一周するのがおススメとか。

 

日本武道館

1964年東京オリンピックの柔道会場として建設された日本武道館。

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日本武道館


ともすればロックの聖地のようなイメージが先行してしまい、本来の建築の目的を忘れてしまいそうではある。事実、1964年の建築の中での知名度は一番。

デザイン面の特徴

屋根の曲線は富士山の裾野をイメージしたもの
八角形なのはどの客席からも競技が見やすいようにするため。

 

駒沢オリンピック公園総合運動場

1964年東京オリンピックの第二会場であった。

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石畳を敷き詰めた敷地には、樹木をほとんど植えない”ドライ方式”と呼ばれる公園らしい。住宅もまばらだった郊外に突如完成した近未来的な空間。一方で駒沢体育館も管制塔も仏教建築を思わせるデザインで、広々とした平地に整然と建物を配置するさまも寺院の境内を彷彿とさせる。

 

駒沢体育館

デザイン面の特徴

法隆寺の夢殿を思わせるデザインで、兜のような独特の屋根を持つ。

技術面の特徴

コンクリートで全体の骨格を組み、その間に屋根をかけることで、
丹下の国立代々木競技場とは異なる手法で広々とした内部空間を生み出した。

 

管制塔

デザイン面の特徴

幾つもの屋根が重なる姿が五重塔を思わせる

 

ホテルニューオータニ

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1963年まで日本では31メートル以上のビルの建設は制限されていた。
このオリンピック準備期間中にその制限が撤廃される。制限撤廃直後に
建てられたホテルニューオータ二は、約72メートルと当時日本一の高さを誇った。


技術面の特徴

オリンピック開幕まで期間がない中、また人手も不足している中、工場であらかじめ造っておいた部材を現場で組み立てる”プレハブ工法”が採用された。
客室には世界初のユニットバスが取り付けられた。
ホテルのシンボルとなったのは17階に造られた回転ラウンジ。海外からのお客様にどの席に座っても富士山を望めるよう設計された。

 

補足:新国立競技場

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上記でも紹介したが、本特集には建築家・隈研吾さんのインタビューが載っている。その中で自らが大成建設・梓設計とともにデザインする「新国立競技場」について語っている。要約しておきます。

新国立競技場の主役は、日本人が最も親しんできた”木”

植栽を軒庇上部に設け、建築を神宮外苑の森に溶け込ませる

隈さんは建築材料の主役をコンクリートから木へ転換させたいと考えている。はるか将来にはこの木を大胆に使った新競技場が21世紀日本を代表する建築になるかもしれない。

 

 

※本記事でも紹介した日本武道館、国立代々木競技場に関しても展示されている展覧会。日本建築は”屋根”に特徴があるようだ。

www.rekishitantei.com

 

※隈研吾さんの建築のうち、建築材料に徹底的にこだわった展覧会。コンクリート以外にも建築材料ってこんなに奥深いんだ…と感心します(展覧会自体は終了しています)。

www.rekishitantei.com