絵画から見えてくる建築。
- やたらと絵画が多い! ユニークな建築展
- 展示冒頭のVTRは必見!
- 壁に映し出される動画も必見!
- コルビュジェ設計の建築内で コルビュジェを見る面白さ
- なぜ絵が多い展覧会なのか
- 自然と幾何学の関係とは?
- 最後に
やたらと絵画が多い! ユニークな建築展
ル・コルビュジェ。
近代建築の巨匠としてすごく有名ですが、自分はそのオシャレな響きのする名前と、「やたらスッキリした、シンプルな(ゴテゴテ飾り立てていない)建築をつくる人」くらいのイメージしかありませんでした。
今回、この展覧会に行ってみて、(当たり前ですが)コルビュジェについて深く知ることができたのと、絵画と建築の関係について、また建築そのものについて改めて考えさせられました。
この展覧会の一番の特色は「絵画から建築へ」と副題にあるように、建築の展覧会なのにやたらと絵画が飾ってあること。建築そのものよりも全然数が多い。
もちろん絵画が多いことには、それなりの深い意味があります。その意味を考えることが、そのままこの展覧会の意義を考えることにつながってきました。
展示冒頭のVTRは必見!
展示入ってすぐのところに、4分の解説VTRが流れています。
「いきなり動画を見るのか…」という感もありますが、これは絶対に見ておきましょう。展覧会全体の構成を大きくつかむのに非常に有益です。
VTRの内容を超ざっくり言うと…
コルビュジェが唱えた芸術上の主義をピュリスム(純粋主義)と言います。
前期ピュリスムでは、物の形を「側面からの方向」と「上からの方向」で捉え、それを絵画にしていきました。
ちなみにこれが前期ピュリスムにおけるコルビュジェの画《積み重ねた皿のある静物》です。
確かに、「側面からの方向」と「上からの方向」からの平面で対象が捉えられ、それ以外の要素はきれいに落とされています。
それが後期ピュリスムでは、重なりあう絵の中の物体が透けてきて、本当は前後に距離をとって存在しているはずの対象物が、連続的に感じられるようになります。
これが後期ピュリスムにおけるコルビュジェの画《エスプリ・ヌーヴォー館の静物》。
確かに対象物が透けています。こんな発想の絵は初めて見ました。面白い。
ピュリスムにはこのような歴史的移行があったんだ、と分かっておくことが、のちの展示を見る際の、頭の整理にとても役に立ちます。
壁に映し出される動画も必見!
最初の展示フロアだけ、写真撮影OKになっています(上述の解説VTRはのぞく)。
フロアにはこんなふうな模型が。
そして壁には、コルビュジェが設計した建築の内外を、動きながら撮影した動画が流れています。
これを見ずに先へ行っちゃう人が多かったんですが、これは絶対見といた方がいいと思いました。
と言うのも、その動画がめちゃくちゃクールだから。
コルビュジェの建築は、装飾を排し、直線、円、方形等の幾何学で構成されている(=ピュリスム)ので、どこをどう切り取っても、画角の中に美しい幾何学が再現されてて、美的に飽きないんです。
また彼は、建築空間をシームレスに、連続して捉えようとしていたので、カメラが部屋から部屋と移動しても、平凡な画に堕してしまう瞬間が少しもありません。このことは静的な写真を見ているだけではわかりません。
ぜひ時間をとって、建築の動画、見てみてください。
コルビュジェ設計の建築内で コルビュジェを見る面白さ
先ほど書いたように、コルビュジェは絵画でも、対象物と対象物との連続性を重視し、物が透けて見えるように描いていました(後期ピュリスム)。
その考え方は建築にも投影され、空間と空間、部屋と部屋の連続性が意識された設計になってます。要するに、部屋それぞれの独立性があまり感じられないのです。
それが、この展覧会が開かれている国立西洋美術館でも感じられて(国立西洋美術館は彼の作品なので、当たり前ですが)個人的には非常に面白かった。
空間が連続しているので、一つのエリアの展示を見終わったら、どっちに行っていいか、鑑賞の順番がよく分からなくなる。でもその迷ってる感じが、コルビュジェの作品だからこそ生み出される”味わい”な気がして、自分ひとりで納得して、満足してました。
なぜ絵が多い展覧会なのか
コルビュジェは絵をたくさん残しています(このことも、この展覧会で初めて知りました)。彼にとっては建築デザインの発想を得るためにも、またそもそも”建築とは何か”を考える上でも、絵画が非常に重要なツールだったのだと思います。
対象を半透明にして、前後が連続しているように見える静物を描いておき、それを建築でも実践してみる、みたいに。
ゆえにコルビュジェの絵も、また彼に大きな影響を与えたキュビズムの絵もかなり豊富に展示されています。というか、絵の展示の合間に建築が展示されている、と言った方が正しいかも。
でもこのピュリスム・キュビスムの絵と、建築を同時に見ることで、「絵というのは見た目をそのまま表現するだけでなく、ものの見方の”思想”も表現できるのか」とか「建築も、ある視点から見ているという意味ではその瞬間、二次元の絵画と同じなのかも…」とか、いろんな抽象的な思考に誘われました。その知的刺激が楽しかったです。
自然と幾何学の関係とは?
コルビュジェは「幾何学こそは人類の偉大な創造であり、喜びである」という言葉を残しています。そしてその言葉通りの、幾何学的デザイン満載の建築をたくさん設計しました。
しかし解説によると、コルビュジェは自然(混沌)と幾何学を対立的に考えていたのではなく、自然の混沌の根本に幾何学的な原理を見出そうとしていたそうです。人間の目は自然の奥に秩序を見ることができれば、幾何学と自然の対立は乗り越えることができると。
なかなか難しい話ですが、自分的には、自分が奉じる”抽象の力”によって自然の中に秩序を創ることこそ、芸術作品(絵画や建築)を創ることなのかな、と思ったりしました。
いずれにせよ、あれだけ幾何学的な建築を成していたコルビュジェも自然から離れることはありませんでした。特に後期は幾何学的なデザインとは真逆の、骨や貝、松かさなどを絵によく描いていた。これはコルビュジェが年齢を重ねて自然回帰しようとしたのか、より透徹した目を持てるようになったからなのか…。どっちなんだろう。
この辺りの自然と幾何学を巡る話は展示の一番最後でしたが、なかなかに考えさせられました。
最後に
コルビュジェの作品や言葉に導かれ、「絵画って、建築って、芸術ってなんだろか…」と普段考えないような、抽象的な思考を巡らす展覧会。そういうのが好きな人はぜひ行ってみてください。
混雑具合は…
自分が行ったのは4月17日(水)。平日だったいうのもあるのか、割とゆっくり鑑賞できました。あと、いわゆる有名絵画モノよりは、見に来る人が少ないのかもしれません。