無類に楽しいクラシック音楽のコンサート。
人を楽しませることに徹したコンサート
東京・サントリーホールで開催された清塚信也さんのコンサートに行ってきました。
清塚さんは、幼少の頃からピアノの英才教育を受け、高校卒業後はモスクワ留学経験もあり、国内外のコンクールで賞も受賞したことがあるという、純粋クラシックの世界から登場してきたピアニストです。
コンサートでもらったパンフより
でも最近はその弁舌さわやかなトークと甘いマスクで、音楽を扱ったバラエティー番組では引っ張りだこ。”歯に衣着せぬ”もの言いをされることもあって(しかも、その毒舌のあんばいがちょうどいい感じ)、ワイドナショーなど情報番組のコメンテーターも務められています。
コンサートは、ピアニストが一人で登場する内容にしてはトーク時間の割合がとても多く、かつ笑いのレベルも高く(というか、クラシックのコンサートでトークありき笑いありき、というのがそもそも珍しい)、トークが終わったら、極上のピアノが流れる、というかなり完成されたエンターテインメントでした。
どんなコンサートだったか、レビューしてみます。
ピアニストなのにも関わらず笑いのレベルが高い
コンサートの皮切りはベートーベンの「エリーゼのために」のメロディーを含んだ”短い”ピアノ曲でした。
どうして短い曲なのか。清塚さんが解説します。
遅れてきたお客さんが入るタイミングを作るため
ここで、まずは一笑(ひとわら)い。そして曲が終わったとき実際に遅れてきていた人がいたので、その人たちをいじってもう一笑い。
ここらあたりで、ピアノコンサートということで、いささかこわばっていた会場の空気も和んできます。
またサントリーホールは、正面から見てピアノの背景にもにも客席があります。
開演前のステージ
そちらのお客さんに向かっては、トークの時は正面向いて話すので「ぼくの後頭部を楽しんでください」と、ここでもギャグを一発。
トークは終始こんなふうに笑い満載で進むので、曲が終わってどんなトークが始まるのか、毎回楽しみでした。
漫才と違って、ツッコミ役がおらず、またバンドのように別のメンバーに話をふることができない”漫談スタイル”でここまで笑いが取れるのはなかなかすごいと思います。R-1にも出て決勝に残れるんじゃなかろうか(大げさでなく)。
あといい具合にお客さんもイジるんですよね。
クラシックのコンサートって、ふつう楽章と楽章の間は拍手をしないんですが、あまりクラシックコンサートに来たことのがないと「拍手をすべきか、すべきでないか」とドギマギする、ということがあります。
そんなドギマギ、ぼくは好きです。
おっしゃっていました。ここでも爆笑、起きてました。このひと言を発する前にきちんと間もとってます。相当、お笑いのことを勉強されている気がします。
クラシック音楽のスマートな解説とそれに沿った選曲がいい
コンサートの第一部はクラシックの名曲から。曲目は以下の通りでした。
- J.S.バッハ:イギリス組曲 第3番 ト短調 BWV808
- モーツァルト:ピアノソナタ 第14番 ハ短調 K.457
- ベートーヴェン:ピアノソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27の2《月光》
コンサートのトークは面白いのもいいけれど、せっかく来たからには、何か”タメになる”知識を持って帰りたいのも思いもあるというもの。
そんな観客の気持ちに添うように簡潔にクラシック音楽の歴史が解説されます。
でもその解説が全然冗長じゃないんです。例えばこんな感じです。
- バッハは王様や貴族をもてなすために、また神様のために曲を作っていた。
- モーツァルトの音楽は、貴族の食事のBGMで演奏されていたから、明るく楽しい曲が多い。ベートーヴェンの「運命」では食事できませんからね(と、ここでも笑い)
- ベートーヴェンは、史上初めて(王・貴族・神のためでなく)自分のための曲を作った人。そしてコンサート形式で、一般の人が聴けるコンサート形式を作った人。今日こうやって、コンサートができるのはベートーヴェンのおかげかも。
そのくらいの簡単な解説のあと、曲が披露されるので、ほど良い関心を持って演奏を楽しむことができます。
この3人の曲を選んだのも、観客にとって一番見聞きしたことのある音楽家だから、という理由が大きかったのではないでしょうか。クラシック音楽へのハードルを低くしよう、そのためにはメジャーな音楽家の曲から入ろうという清塚さんの意図の現れではないか、と感じました。
また「モーツァルトはほんとに自分のためにだけ曲を作ったら、暗い曲を作っていたのでは」「それは、厳しかったお父さんへのコンプレックスがあったから」という清塚さん独自の見解も披露。そのあとに、そのモーツァルトの暗い心情が表現されたピアノソナタを演奏されていました。モーツァルトの意外な一面を知ることができ、興味深かったです。
楽曲におけるサービス精神がすごい
コンサートの半ばで休憩のあと、第2部はポップスや清塚さん自作の曲などクラシック以外からの曲でした。
その中では、最初に弾かれたのは
- Four seasons Medley~Fantasy on Ice 2018 Ver.~
四季にちなんだ曲を4つつなげるというものでしたが、ユーミンの「春よ、来い」、ジャズの名曲「枯葉」等を清塚さんオリジナルの感覚でつないだものでした。
誰でも知ってる「春よ、来い」のメロディーが流れた瞬間、「ああ、知ってる知ってると」会場が安心感につつまれます。
後半の、それ以外の自作の曲(ドラマ・コウノドリのテーマ等)も、曲と曲の間に面白エピソードが挟まるし、また一つ一つの曲尺も長くない(最大で5~6分程度か)ので、初めて耳にする曲でも、まったく飽きずに楽しむことができました。
アンコールでは動画の撮影もOK。客席みんなが、スマホを取り出して撮影していました。
最後まで、ほんとに観客第一のコンサートでした。
最後に
クラシックのコンサートは高齢化が進んでいて、若い方はほんとに珍しいんです。
でも清塚さんのコンサートでは、終了後、若い女性がサインをもらうために列を成していました。これだけサービス充実のコンサートを聴かせられたら、それも納得です。
清塚さんの甘いマスクに惹かれているだけでなく、楽しいライブを見に行きたい!と思っている人が多いのだと思います。
クラシックに興味があるけど「ちょっと敷居が高いな」と思っている方、または「底抜けに楽しいピアノコンサートに行ってみたい」と思っている方などは、ぜひ足を運んでみてください!