歴史探偵

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ららら♪クラシック~最強の音楽家は誰だ?~(2019年1月18日放送)完全書き起こし

(音楽家にとって)チャンピオンベルトは一つではない by宮川彬良

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2018年1月18日放送「ららら♪クラシック」まるっと採録してあります。

中身はこんな回でした…。

バッハ、モーツァルト、ベートーベンの中で「最強」の音楽家は誰なのでしょう?。今回、番組ではクラシック・ファン85人にアンケートを実施。番組独自のランキングを作成しました。合わせて日本を代表する音楽学者にも取材。それぞれの音楽家の魅力や強みを珠玉の名曲とともに考察します。クラシックの世界に足を踏み入れたばかりのビギナーも、音楽マニアも、ともに楽しめる30分です。―番組HPの紹介文より

今回の番組出演者

  • 高橋克典(歌手/俳優)
  • 牛田茉友(NHKアナウンサー)
  • 宮川彬良(作曲家)

 

オープニングVTR~番組のツカミ~

バッハ、モーツァルト、ベートーベン。
3人の中で最強の音楽家はいったい誰?
今回、番組ではクラシックファンが集うスポットで緊急アンケートを実施!
名曲喫茶では…
マダムの皆さんが協力してくれました!
CDショップでは…

(お店の方)ベートーベンです

音楽雑誌の編集部では…

(編集部の方)バッハが一番最強かな、と

クラシックの殿堂、東京文化会館では…

(コンサートを見に来た方)モーツァルトです。絶対です

全部で85人のジャッジ!
最強の音楽家、間もなく発表です。

 

スタジオ①~企画趣旨説明~

高橋:ちょっとなんか、どういうことですか?音楽家の最強って決められます?
牛田:難しいですよね。
高橋:そもそもですよ、何をもって最強なのか、と。
牛田:そこをあえて比べてみようという趣旨です。3人を比べることでそれぞれの特徴や魅力を再発見していきたいという趣旨なんですよね。
高橋:ちょっと新しいですね。
牛田:今回のこの企画には、強力な助っ人もお願いしています。

 

VTR②~番組に協力いただいた音楽学者の皆さんを紹介~

今回ご協力いただいたのは日本を代表する音楽学者の皆さん。

バッハの研究家・明治学院大学名誉教授・樋口隆一さん。

バッハの合唱団の指揮者も務めます。
東西冷戦の時代、東ドイツに渡り研究に没頭したこともある、バッハ学者の草分けです。
あえて聞いてみました。最強の音楽家は?

バッハだと思いますね

モーツァルトは慶應義塾大学教授・西川尚生(ひさお)さん。

モーツァルトの貴重な史料を丹念に読み解き、学説上、重要な発見をしたことも。
聞いてみました。最強の音楽家は?

もちろん、モーツァルトです。

ベートーベンについては音楽学者の平野昭さん。ベートーベン一筋40年。
日本におけるベートーベンの権威です。
最強の音楽家は?

客観的に、音楽史家として見てベートーベンですよね。

 

スタジオ②~ゲスト紹介~

高橋:いや〜わかってきましたよ、この企画。いたって真面目に向かってみようと。企画でございますね。
牛田:ではゲストをご紹介いたします。おなじみ、作曲家の宮川彬良さんです。
宮川:おなじみでございます。よろしくお願いします。
牛田:こちらに3人が生きた時代を年表にまとめました。

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(3人の年表を見ながら話す)


高橋:これ、やっぱりバッハがね、一番最初。すぐあとにモーツァルトが生まれているんですね。
宮川:僕が興味あるのはね、最強同士の、相手のことをどう思っていたのか、っていうのはすごい興味ある、とこなんですよね。
高橋:ああ、なるほどね。
牛田:いよいよですね、いきましょう。クラシック・ファン85人に聞いた最強の音楽家ランキング、こちら。まず第3位です。こちらです。モーツァルト。
高橋:意外と。そうですか。う~ん。
宮川:最強の天才ランキングっていう名前だったら、ぼく、モーツァルトさん一番だと、そんな気はしました。

 

VTR③~モーツァルトが最強の理由~

まずはクラシック・ファンの声から。

(編集部の方)迷うことなくモーツァルトですね。全てのジャンルで名作を残していると言う意味で、最強じゃないかな、と。

(コンサートを見に来た方)モーツァルトです。一番早くして亡くなったのに、この最強争いに肩を並べたっていう点です。

西川先生にアンケートの結果を見ていただきました。

3位モーツァルト。これは予想外の…残念です。

落ち込んでいらっしゃるところ、スイマセン。先生が考えるモーツァルト最強の理由は?

一つ目は万能の天才。

モーツァルトはあらゆるジャンルに傑作を残しました。それは教会音楽、交響曲、協奏曲、室内楽曲、ピアノ曲。

ここで先生おすすめのモーツァルト・メロディーを一挙ご紹介。

♪ピアノ協奏曲第23番第1楽章のピアノ独奏が始まるところ
(しばらく聴く)

ほんとに典雅で気品溢れる音楽ですね。全てが調和した美に満たされています。

♪レクイエム
(しばらく聴く)

崇高な荘厳さですね

♪交響曲40番ト短調
(しばらく聴かせて)

ドラマティックな情熱の発露ですね。

あらゆるフレーズ、あらゆる部分に美しいメロディーに満たされている。まさに万能の天才。

では先生、もう一つの「シンプルだが、奥が深い」についても教えてください!

モーツァルトの音楽は親しみやすい、誰でも、覚えられるようなメロディーに満たされているわけですけれども、でも表現内容ということになると、非常に深いものがあります。

先生が選んだのは、オペラ「魔笛」の中の二重唱です。

♪歌劇”魔笛”から”パ・パ・パ”

(しばらく聴かせて)

素朴な誰でもこう鼻歌で歌えるようなメロディー、なんだけれども表現されている内容は、人生の喜びだったり愛の、人を恋することの楽しさだったり、魔笛なんかパパパの二重唱なんかまさにそういう音楽ですね。

最後にアンケートの結果について、先生からひと言…

日本人はモーツァルトって言うとやっぱり器楽の方を中心に聴くんですよね。でもモーツァルトっては実はオペラの作曲家なんです。彼の最も重要なジャンルは何かと言えばオペラなんですよね。
いかにフィガロの結婚が素晴らしいか、ドン・ジョバンニが素晴らしいか、魔笛の全曲が素晴らしいかってのを、ぜひ聴いていただきたいと思います。

 

スタジオ③~モーツァルトVTRを受けて~

高橋:先生も、最後は泣くんじゃないかっていう。
宮川:でもああいう風に言われるとさ、ほんとに確かに最強だなって、思えてきちゃうよね。やっぱり一発で答えを出すっていう意味では、天才という言葉では他を圧倒している気がするね。推敲したような感じがしないじゃない。書いたものが全て。ペンを置いたところが正解、っていうレベルだから。ある種の最強感がそこに、今、感じ始めちゃったんだけど。
高橋:なるほど〜。
牛田:今回ですね、これが音楽家最強の一曲というのを、それぞれの先生に選んでいただいています。
高橋:この曲が最強ですよ、と。
牛田:モーツァルト最強の一曲は、交響曲第41番「ジュピター」です。

♪交響曲第41番「ジュピター」第4楽章(抜粋)鑑賞

 

スタジオ④~最強の音楽家 1位と2位は?

牛田:クラシック・ファン85人に聞いた最強の音楽家は誰だ?2位と1位の発表です。
高橋:さあ誰ですかねえ。どっちですかねえ
牛田:第2位がこちらバッハ。
そして第1位、ベートーベン。
高橋:でもクラシック・ファンってもうちょっと聴き込んでる感じがするから。あの〜。意外でしたね。バッハかな?って思いましたけど正直。
宮川:そうね。
牛田:実際にですね、こちらアンケートを街頭で取った時のシールなんですけれども。
高橋:圧倒的ですね。でも何をもってしてなんだろ、それが知りたいですね。
宮川:やっぱり、ベートーベンていうと、ある種のヒーロー感っていうのかな、作曲家界のヒーローっぽい、立ち位置ってあるのかもしれないね。
牛田:さあでは、第2位のバッハについて、クラシック・ファンの街の声からお聴きください。

 

VTR④~バッハが最強の理由~

まずはクラシック・ファンの声から。

(編集部の方)最強と言うとやはりバッハ。神様のための曲を作っているので、音楽を作る目的が一番高いところにある。

(CDショップのお客さん)バッハです。(理由は?)音楽大学で作曲だったり編曲だったりを学んでいたんですけど、バッハすごいな

樋口先生にアンケートの結果を見ていただきました。

ベートーベンなんだ。ふ~ん。
僕はモーツァルトが1位で、バッハが2位で、ベートーベンが3(位)くらいかなって思っていたけど

先生が考えるバッハ最強の理由は?
まず一つ目、「西洋音楽の根幹を今に伝える音楽」なるほど…

バッハの音楽ってね、ヨーロッパの音楽の根幹なんですよ。
根幹は何かっていうと、ポリフォニーって言って、一つの誰かが歌ったのにね、第2、第3の音が加わってすごいものができていくわけ。
それが規則的にズレて、始まるやつをフーガっていうのね。

先生の言う「フーガ」という技法がこちら。

♪平均律クラヴィーア
高度な理論に裏付けられたこのフーガで、バッハは史上最高に美しい響きを生み出しました。

そういう音楽を理屈でも作ることはできるんだけど、バッハの音楽はね、理屈でも完璧な上にね、なおかつ自然なんだよね。

ではもう一つの最強の理由「生命のリズムを表現して人間を幸せにする」とはどういうことなんでしょう。
先生が指揮を務める合唱団にその答えがありました。
2000年に樋口先生が結成した「明治学院バッハ・アカデミー」。週に一回、バッハの愛好家が集い、美しい響きを追求しています。

バッハのカンタータ。確かに心地よいリズムですねえ。

ものすごくいいですよ。あれが生命のリズムです。もう本当に心が躍るよね。最後はハッピーって言うのがバッハです。

(合唱団の方)バッハのハーモニーに感じた時に心が癒されて私、ここの場所にいたいと思った。

(合唱団の方)疲れてここに来るんですけど、逆に癒されて帰っていく。

バッハのハーモニーとリズム。300年の時を超え、確かに人を幸せにしていました。

 

スタジオ⑤~バッハVTRを受けて~

宮川:理屈が通っているという言い方、先生がなさってた。確かにそれは感じます。モーツァルトは天才という二文字が似合うんだけど、バッハは完璧なんですよ。宇宙はこうなっているはずだ!てなったらその理論にのっとって全部作っちゃうって、その、耐久力っていうかね、自分の好きなキーだけで、作りたいですよ。そこがすごいなと思う。
高橋:なんかその完璧っていうのはいろんな音楽的な、宇宙にも通じるような、音って宇宙と繋がってるものってある気がするんですけど、その調和が完全に取れてるっていう。
宮川:どっちから攻めても完璧なんですよね。

♪ミサ曲ロ短調「われらに安らぎを与えたまえ」鑑賞

 

スタジオ⑥~宮川彬良さん バッハに感嘆…~

宮川:ああいや、もうダメ。バッハ聴いたらもうバッハ最強。全てのパートが、ちゃんとメロディーになってる。
牛田:今のお聴きになってそう思いました?
宮川:よくできてるな、って安い言葉は当てはまんないね。いや、最強だわ。それで、なんだっけ?
高橋:で、その上に来るのはですね、ベートーベンらしいです。ま、ちょっとしたお遊びですけどね、今日のね、3人、順位は。
牛田:全然違いますからね、それぞれね。
高橋:ですよね、そもそもが。でもどうしてクラシック・ファンと呼ばれる人たちが、ベートーベンと答えた人が多かったのか、という。
宮川:知りたいですよね。

 

VTR⑦~ベートーベンが最強の理由~

まずはファンの声から。

(名曲喫茶の方)バッハやモーツァルトの時代には貴族のために書いていた時代ですよね。ベートーベンこれを壊そうとした。人間のために書いた。

(編集部の方)もうズバリ、ベートーベンですね。日本のクラシックファンが一番尊重するものって交響曲なんですけれども、交響曲と言えばベートーベン。ベートーベンと言えば交響曲。

平野先生にアンケートの結果を見ていただきました。

いや~圧倒的ですね、圧倒的。
いずれにしてもベートーベンが一位になるでしょう。これは。

先生、嬉しそう。ベートーベンを最強だと思う理由は…?

バッハもモーツァルトも完全に消化吸収。
バッハの良いところ、モーツァルトの良いところ、全てベートーベンは自分の中で、新しく組み立て直してるわけですね。

ベートーベンは10代のころ、作曲の教材にバッハの「平均律クラヴィーア」を使っていました。ベートーベンの音楽の根底にはバッハがあるのです。

初めて交響曲を書いた30歳のころには、モーツァルト晩年の交響曲を徹底的に研究しています。
(♪ドーソシドーソシドー)
こちらは交響曲、第1番に出てくる音型。
(♪ドーソラシ、ドーソラシドー)
モーツァルト最後の交響曲ジュピターの音型を借りていると言われています。

もう一度連続してきいてみましょう。
(♪ドーソシドーソシドー)
(♪ドーソラシ、ドーソラシドー)
確かに似ていますね。ベートーベンからモーツァルトへのオマージュです。

さらに40代の後半。交響曲は八番まで書いて、大音楽家として名を馳せていたベートーベン。
ここでもう一度バッハに立ち返り、フーガを勉強しなおします。
その成果はピアノソナタの傑作・ハンマークラヴィーアとして花開くのです。

♪ソナタ「ハンマークラヴィーア」

ベートーベンはバッハやモーツァルトの上に、新しい時代の音楽を生み出そうと、野心に燃えていました。

伝統を尊重しながらも自分は新しいものを作っていかなきゃいけないっていう、そう言った使命がすごく強いんですね。

(♪ダダダダーン。ダダダーン)
あの有名な「運命」。
(♪トロンボーンの音)
第4楽章で、ベートーベンはそれまで主に宗教音楽に使われていたトロンボーンを初めて交響曲に加えました。

さらに第九。
(♪第九の合唱)
なんと交響曲に声楽を加えてしまいました。
理想の芸術のためには時代の常識など、どこ吹く風。やりたいことは全部やる。それがベートーベンなのです。

どこの貴族にもおもねもせず、教会や王宮にも仕えずですね、一人で芸術を追求してたわけですね。最強です、やっぱり。

 

スタジオ⑦~今の音楽の基礎はベートーベンが築いた~

高橋:嬉しそうでしたけど、先生。でも言われてみれば確かに、おっしゃることはごもっともですね。
宮川:ずっと身近なぼくら、生きてる音楽家から、ずっとたどってくと、今の音楽シーンの基礎って、やっぱベートーベンが、構築したのかな、っていうふうにぼくには聞こえましたね。例えば、新しくないと良くない!っていうような発想とかも、あ、確かにベートーベンが始めたのかもしれないな、と。自分の思ったことは全部実現するんだ、っていう、それあんまり行き過ぎてもなんだと思うんだけど、でもこの世の中って今、ベートーベンの敷いたレール上にあるということは、なんか今、感じましたね。

♪ピアノ協奏曲第5番「皇帝」鑑賞

 

スタジオ⑧~音楽家のチャンピオンベルトは一つではない~

牛田:今日の企画、いかがだったでしょうか。
宮川:自分も頑張ろうと思えますよね。だってそれぞれいろんな尺度で最強ってあっていいんだ、ぼくはちょっと勝手にね、何が一番っていう話じゃないもんね、今日は。どこに行っても最強になれる。それは音楽の一番素晴らしいところはそこなんじゃないかな。チャンピオンベルトは一個じゃないっていうね、そこがやっぱり夢があるなあ、自分もイケるぞ!ってなんとなく、勇気をいただいたような感じがしました。

 

※過去記事です。オーケストラについて詳しくなる回のポイントをまとめました。

www.rekishitantei.com

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