歴史探偵

趣味の歴史、地理ネタを書きまくろうと思っていたら、仕事柄どうしてもTVの記事が多くなる今日この頃…

建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの@森美術館・感想

日本建築の個性を取り出す。 

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建築の日本展@森美術館(六本木ヒルズ)に行ってみた。

最近自分の中でとても建築が流行っている。建築は「建物のデザインはこうあるべきだ!」という建築家の独創や個性が表現されているのに、同時にその作品(建物)は、街の中や公園に置かれ、周囲や社会との調和を図らざるを得ない。また建築は過去からのデザインや技術も継承している、という歴史性もある。また当然のごとく建築技術や建築材料といった即物的な要素も重要だ。それら作家の独創性+社会性+歴史性+即物性らが絡み合った建築って、あれこれ考えたり味わったりする対象としてとても魅力があるように思う。

今回の展覧会はその「建築を味わう」という行為に対してとても役立つ様々な視点を提供してくれる面白い内容でした。「建築の日本展」と題しているだけに、日本の建築を海外のそれと比べてどういう個性を持っているか、また海外の建築からどのように影響を受けているか(または影響を与えているか)についてとても意識的で、個々の作家の作品を並べている展覧会では得られない建築をみる上での複眼の目を得られたように思う。

ちなみに自分が訪れたのは5月3日(祝)というGW後半の初日、夕方17時過ぎ。それほど混んでなくてゆっくり鑑賞出来ました。

開館時間は10:00~22:00(最終入館 21:30)※火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30)なので、終わりの時間を気にしてソワソワしなくていい。ここが夜まで開いている森美術館のいいところ。

その分(かどうかは知らないけど)チケットも1800円と値が張ります。あとで知ったんですが、チケットぴあで購入すると1500円+手数料(108円)で買えるみたい。今度からはそうしよう。

http://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=1806610&rlsCd=001

以下、自分がグッときたポイントについてまとめておきます。

※写真は一部コーナーで可。

01可能性としての木造

展覧会は以下のように9つのコーナーに分かれている。

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美しい木の構造体

冒頭、鑑賞者を美しい木組みのブロックが迎えてくれる。「ミラノ国際博覧会2015日本館」で披露された「立体木格子」と称される作品の復元だと言う。

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金物は一切使用せず、木の組合せだけで作られた構造体。この展示を皮切りに様々な木造建築、そしてそのための技術が紹介される。

木組

木組の仕組みそのものを紹介する展示では、追掛大栓継ぎ、台持継ぎ等々9種類もの組合せ方が披露されておりその多様さが面白い。「木と木はこんな凹凸の形でつなぎ合わされているんだ…」と感心する。次回から寺院の軒先など見たら、この時のどの組合せを使ってるんだろう、などと考えて愉快になりそう。

大工秘伝書

いわば、工匠たちのノウハウが詰まったマニュアルが展示されていたのだが、そこの解説が面白かった。

木割と呼ばれる「各部材の比例関係をシステム化した設計技術」があったらしいのだが、江戸時代にはその技術を書いた雛形本(マニュアル)が流出した。そうすると寸法や形状は自動的に決定され、もはやくふうの余地はなくなり、工匠の関心は彫物や彩色へと向かったらしい。彫物や彩色といえば日光東照宮など思い出すが、あのような立派な装飾建築が生まれた背景にはこのような事情があったのだろうか。

 

02超越する美学

このコーナーのテーマ解説では日本建築の特徴として豊かな「簡素さ」とでも言うべき要素を見出している。そしてその簡素さは日本文化の「もののあはれ」「無常」「陰翳礼讃」にもつながっていると、説く。

その解説を念頭に置きつつ、大徳寺の孤篷庵の茶室「忘筌」の写真などを見ていると、シンプルな障子のデザインが何ともクールで、現代のインダストリアルデザインにも通じる豊かさを秘めているように思えてくる。

 

03安らかなる屋根

西洋の壁vs日本の屋根

このコーナーのテーマ解説では「西洋の壁」に対して「日本の屋根」が対比させられている。解説の表現を引いておく。

西洋のように日中の熱を貯められる厚い壁ではなく、屋根を発達させてきました。屋根は雨や雪を遮り、軒を深く伸ばすと日光を十分に受けることができます。

環境に適応しながら、外から眺められて象徴にもなるという両義性を持つ日本建築の屋根は、人間を守り、機能を姿かたちで表現して見た目にも安心させる「安らかなる屋根」だと言えるでしょう。

屋根が日本建築の特徴であったとは新鮮。そう思ってカメラマン二川幸夫氏が撮影した「日本の民家」の写真展示を見ていると、日本の屋根も多様だなあ、と思う。茅葺き、瓦…。形状も地方によって異なる。屋根を見れば日本の気候分布が分かるし、日本人が環境に対してどのように対処してきたか、その証でもある。

 

日本武道館 

このコーナーでは魅力的な屋根を持つ昭和の名建築2つが目を引いた。 

まずは日本武道館。

(写真は無料写真サイトからのものです)

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日本武道館の屋根の形状は富士山の稜線を模したものらしい。1964年と東京オリンピックの柔道の会場として設計された日本武道館は「日本武道振興」のための「純日本式の一大聖堂」が要求されていた。日本の武道精神を一身に背負うべく建てられた日本武道館に取り入れられたのは富士山のかたち…。まさに日本の伝統を結晶化したような建築だったわけだ。

 

東京オリンピック国立屋内総合競技場

もう一つの昭和の建築は東京オリンピック国立屋内総合競技場。

 

作品の解説によれば

東大寺大仏殿をしのばせる大きな屋根や両端に載る鯱(しゃちほこ)か鴟尾のような突起物には、日本の伝統の影響がうかがえます。

屋根を外観表現の中心にすること自体が、多雨な気候下での木造という日本の伝統建築の賜物に違いありません。

とある。屋根が大いに目立つということ自体、日本の伝統だというわけ。

しかし自分がこの作品に強い興味を覚えたのは最近「建築家、走る」という隈研吾さんの語り下ろし本を読んだからだった。

隈氏は言う。東京でバロック性(隈氏言うところの官能性)がある建物は、①歌舞伎座②東京駅③代々木体育館(=東京オリンピック国立屋内総合競技場)の3つだと。そして隈氏は、小学校4年のとき、この東京オリンピック国立屋内総合競技場の美しい屋根の曲線を見たときに建築家になることを決めたらしい。

今や世界を飛び回る大建築家を生み出す一つのきっかけとなった大屋根。それが日本建築の屋根を重視する伝統につながっていたかと思うと、とても興味深い。

 

04建築としての工芸

待庵

このコーナーの目玉は何といっても国宝の茶室・待庵のレプリカ千利休がデザインしたとされ、茶室建築の最高峰とも言われる。しかもこのレプリカは写真撮影OK(外観のみ)。

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本物の待庵は京都府大山崎町にあって、拝観しようと思うと往復ハガキで拝観日の一ヶ月前にはハガキが到着している必要があるなど実際見に行くのはなかなかハードルが高い。なのでレプリカとはいえ茶室の中に入れるのはとても楽しい。

待庵の解説を引いておきます。

幅、奥行き、高さ共に人間の身長から割り出された極小の空間。その表皮は土、あるいは草木の類など儚くあいまいな形状をもつ自然素材で形づくられており、さながら人間のための巣のようです。

”巣”とは言いえて妙。待庵の中で座っていると、自然の素材に囲まれているだけに人工の建物の中にいる気はしない。大河ドラマなどで茶室で密談しているシーンをよく見るが、こういう密やかな空間でやりとりしていたのか、と思うと登場人物の心情を追体験できるような気がする。

 

05連なる空間

パワー・オブ・スケール

建築とは人が使うもの、中に住むものなので、設計するうえで人の身体のスケールというものがとても重要になる。その身体のスケールと建築との関わりあい方をそのまま映像美術にした作品が「パワー・オブ・スケール」この作品も写真撮影OKだった。

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作品そのものもとてもオシャレでクールなのに、その映像を見ていくうちに自然と空間と人間の身体のスケールのありようを考えてしまう。アート作品としてのクオリティクオリティが素晴らしかった。

 

日本建築の遺伝子は近代建築に通ず

このように自分なりに興味深かったポイントをまとめてみた。

あと総じて面白かったのが、西洋の建築家たちが、日本建築の伝統の中に、近現代建築に通じる要素を見出していたということ。例えば、このような彼らの言葉。

ル・コルビジェの大切な理論であるモジュールの標準化と規格化について、当時私たちはまだ実現できていなかった。しかし、日本家屋にはそれが当然のように行われているのを目にすることができた。 

シャルロット・ペリアン

私は昔の日本の住まいが、私自身が作り上げようとしていた近代的な標準化の完全な例であることを知った。     フランク・ロイド・ライト

私は、日本の建築から教えられ、啓発されるところに従って、根本原則の実現につとめてきただけのことである。私に現代建築の原則を教えてくれたのは、日本の建築であった。   アントニン・レーモン

日本建築が持つ空間の連続性(縁側に代表されるように外と内があいまい、また障子・ふすまで仕切るように、内なる空間の境界もあいまい)、標準的な寸法に従って木造建築を作っていくモジュール性簡素さを良さとするデザインなど日本建築が古来から受け継いできた特徴は、全て近現代建築に通じるというのだ。何だろう、この一周回って最先端…というような感覚。真に魅力的なものは時空を超えて普遍性を持つということなのか。

日本の茶室にヒントを得て、ロンドンに住居・スタジオを作ってしまった例も展示されていた(08発見された日本 8_82「ダーティー・ハウス」デイヴィッド・アジャイ)。

明治に入って日本人が続々西洋建築を受け入れたが、日本人も西洋に影響を与えている。この日本と西洋の交流のダイナミズムを目の前に大きく可視化してくれるので、建築は面白い。

 

建築好きはもちろん、日本の個性って何だろう?日本文化と西洋文化の違いは?みたいなことを考えるのが好きな人にもおススメの展覧会。9月17日(月・祝)まで。

 

※公式ホームページです。

森美術館 - MORI ART MUSEUM

 

※JR東日本の車内誌「トランヴェール」の2018年5月号。1964年の建築に焦点を絞った特集が非常にいいです。

www.rekishitantei.com

 

※「建築の物質=材料」に着目したこちらの展覧会も相当面白かったです(展覧会自体は終了しています)。

www.rekishitantei.com