"人体"を見るには覚悟がいる。
3月21日の春分の日、特別展「人体」に行ってみた。
3月の祝日。かなり混んでいた
正直言ってこの展覧会をなめてました…。15時には国立科学博物館に到着したのだが、整理券を受け取らなきゃいけない。しかも15:45〜からの時間帯の整理券だと言われる。「45分も時間をつぶさなきゃいけないのか…もったいない」と思いつつ、当日券購入の列に並ぶ。
やれやれ、と当日券を購入し、整理券をもらいに行くと、今度は配布される整理券は16:00〜に変更されている。17時には閉館なのに、さらに観覧時間が短くなってしまった…。
あとで分かったんですが、当日券もオンラインで買えます。少しでも時間が惜しい!と思う方は事前にオンラインでの購入を激しくおススメします。
冒頭の「"人体"を見るのには覚悟がいる」というのも、グロテスクな人体が飾ってあるから覚悟がいる、というより”相当な混雑”に覚悟した方がいいという意味です。
あと、先に言っておくと展示・解説はかなり充実しています。なのでじっくり見ようと思う人は2時間はかかる、と思っておいた方がいい。整理券配布していますが、館内も相当混んでいるので、自分のペースでサクサク見るというわけにはいかなかったです。
極私的ポイント解説
会場で配布されていたMAPです。
今回の展示を見て感じたのは、人体の構造・機能もさることながら、時系列的な医学の研究史が懇切丁寧に説かれているということ。逆にいうと、研究の歴史ではなく、今の我々の身体の実状を詳しく知りたい、という人は医学史の部分は流し見でいいかも(例えばMAPの左下にある1章など)。そうしないと全体の解説が多いのでくたびれてしまうかもしれません。
MAPを見ていただければわかるように、2章からは身体の機能別に展示が分かれています。そしてそれぞれのコーナーで最も混雑を極めているのは、人間の心臓、腎臓等のホンモノの標本です。生々しいものが苦手な人のために、そういう標本はパーテーションで仕切られたスペースにディスプレイされており、見たくない人は見なくてすむ仕掛けになっていました。
でも思ったより人の臓器はグロテスクには思えず、「心臓はやっぱり焼鳥のハツ(心臓)に似てるかも」とか「肺って意外と小さいなあ」とか、ホンモノの標本からしか感じられない印象を持つことができました。やはり混んでるといっても、せっかくなのでこれらの標本は見ておいた方が良いか、と。
あと見学ルートのところどころに置かれているモニターの映像解説がいい。尺も時1分弱〜3分程度と、立ち止まって見るのにちょうどいい長さ。おかげで行列の待ち時間も有効に使えました。特に毛細血管の中を赤血球が通っていく映像など、今のテクノロジーって血管の中をここまで映し出すことができるのか、と驚きでした。
また各臓器は、魚類、両生類からネズミ、ゾウなどあらゆる他の生物と比較対照されています。脳などはアウストラロピテクスからヒトの進化に沿って、標本が並んでいます。あらゆる角度から人間の身体の構造を迫れるよう工夫されているわけです。じっくり見学できれば、人間の身体に対する理解が本当に深まると思う。ただそれだけの情報量をアタマに入れるにはそれ相応の時間と労力がかかるので、余裕を持って入館される方がいい、ということを強調しておきます。
人体をアートとして見る、そして村上春樹
勉強っぽい内容よりももっとアミューズメントっぽく楽しみたいというには、後半の展示がおススメ。後半は写真撮影できるところも結構あります。
こちらは「ネットワークシンフォニー」という部屋。ここでは各臓器の”心の声”を聞く、というアソビができます。
各臓器の”心の声”を聞く、って意味不明ですよね。これ、NHKスペシャルの「人体」を見ていないと理解が難しいのですが、各臓器は、ある物質を放出することにより、臓器同士で直接(脳を介さず)コミニケーションを図っているらしいのです。この部屋ではその声を擬似的に聞くことができる、という仕組みです。
例えば、天井の心臓の真下に行くと、写真のようなメッセージが聞こえます。
空間は光がとても綺麗ですし、臓器の声を聞くために部屋内を動き回らないといけない、という多少のゲーム性もあるので、難しい展示を見終わった頭とココロをほぐすのにはちょうどいいと思います。
それにしても、NHKスペシャルで紹介していた臓器同士のネットワークをアミューズメント・アートにしようと考えた企画者は誰なんだろう。すごく独創的な発想だと思う。その企画を通したエライ人もセンスあるな。
あとアートとして非常に美しいのが「体内美術館」。特殊な顕微鏡により、身体内の凹凸を色彩の変化で見せることで、臓器そのものの写真がアート作品のように見えます。
(実際の写真はラットの臓器らしいです)
例えばこれは「脊髄を走る神経の束」。
こちらは「膵臓のランゲルハンス島」
村上春樹の作品の題名にありましたね、ランゲルハンス島。中学の生物の授業をサボって春の川岸の芝生に寝っ転がっている春樹少年が「1961年の春の温かい闇の中で、僕はそっと手をのばしてランゲルハンス島の岸辺に触れた」と閉めるエッセイ。もちろんここでの”ランゲルハンス島”は生物の教科書から膨らんでいく詩的イメージの中での話ですが。
こういう写真を見ていると、身体という自然は一見、込み入った複雑な構造を持っているけれども、臓器ごとに造形的なパターンがあることに気づかされます。そのパターンが精緻なので、そこに凹凸によって色彩に変化をつけるとそのまま、現代アートの絵のように見えてくるわけです。各臓器は、その臓器を所有している個体を生きながらえさせるという固有の機能を持っているわけで、その機能を果たすために、複雑だけども秩序ある構造を、生物は獲得したんだなあ、とそんなことを考えました。
あらゆる意味で充実の、特別展「人体ー神秘への挑戦ー」。6月17日(日)まで。
※公式ホームページです。
※ヌードを特集する展覧会。芸術的観点から人体に迫っています。
※現在、上野の東京国立博物館で開催中の『名作誕生』についての記事です。美術作品の背後に流れるストーリー重視の展覧会です。
※建築を通じて”日本的なるものは何か?”と考えさせられます。