これはやられたな…と思った。
2017年の紅白オープニング。渋谷の街中のバスから、メインMCのウッチャンと二宮と有村架純が駅前の人だかりに向かって手を振る。いきなり渋谷に現れた超有名芸能人を見た人は、SNSでつぶやいて、勝手に拡散してくれるだろう。上手い作戦だ。
今までの紅白でもコールドオープニング(=歌から始まらないオープニング)は何回もやっていて、観客席とかホールロビーからMCのトークで番組を始めていた。しかしこういうのはあまり新鮮味もなく、自分など「意味のないコールドオープニングするくらいなら、派手に音楽でジャーンと始めた方がいいんじゃないか」と思っていたくらい。しかし今回くらい大胆に渋谷の街に飛び出されたら、
「おお、これはすごい!」と声を上げてしまう。
続いてのスタイリッシュな映像での出演者紹介もクールかつお洒落だった。「渋谷といえばセンター街だけ映しときゃいいんでしょ」的一面的な切り取り方でなく、のんべい横丁まで出てくると、制作陣の"渋谷愛"を勝手に感じてしまって、思わずニヤリとしてしまった。
またこの映像での出演者紹介は、毎年の紅白につきものの難点を消し去っていた。それは「ステージで出演者を紹介する、どうしようもなくダレるシーン」をうまく回避した、ということ。
制作陣としては、日本一豪華な出演者陣の顔をぜひ売りたいはず。
しかし出演者がゾロゾロ登場するのを延々紹介していると、必ずダレてしまう。MCが出演者に関するコメントを幾らアナウンスしたとしても、全く耳に入ってこず、視聴者の集中は途切れる。
それならば、と出演者を板付(いたつき。最初からステージに登場させておくこと)にしてしまうと、一組一組の出演者の顔を売ることはできない。
この紅白オープニングの泣き所を、VTRを使うことで一挙に解消してしまっていた。「な〜んだ、それだけのことか」というコロンブスの卵的アイデアだけど、初めに思いつき、かつ実行する者はやはりエライのである。
渋谷の街からのMC登場〜スタイリッシュ出演者紹介Vがうまく噛み合うことで「今年の紅白って面白そう!」という期待感をあおることに成功していた。この期待感さえ醸成しておけば、途中つまらないシーンが挟まっても「もう少し見てみよう」と番組の味方をしたくなるもの。逆にオープニングがすべっていると、途中のつまらないシーンのつまらなさが倍増し、視聴者の心の中にネガティブな感情が積み上がりやすくなる。
今回、自分は完全に前者で「今年の紅白は何かやってくれそうな気がするぞ」とほぼ最後まで全シーンを視聴した。エンタメにおいては"ツカミ"がイノチという当たり前の原則を再確認できたオープニングだった。