ネットとTVはどちらが自由だ?→TVの方が全然自由です。
- 元TBS有名Pのトークイベント!
- 落合陽一さんはeducativeな人
- ”歴史を学ぶ”ことの意味
- 出世が早いから”バラエティー”
- いいキャラ”素人さん”の捕まえ方
- ヤラセと演出の差異〜共犯関係を作る〜
- 徹底的なインタビューで”イチ”にたどり着く
- 会社では企画が通る理由を”考えてあげれば”通る
- ”女性”は何歳になっても”女性”である
- さんまさん”を”笑わせる さんまさん”が”笑わせる
- 自分の意識を変えると周りの環境が”違って”見える
- ネット動画とTVはどこが違う?
- ネットとTVでは”TVの方が自由”
- 番組のゼロ次利用とは?
- ”話したいこと”と”話させたいこと”
- ”出張伺い”にムカついてフリーに
元TBS有名Pのトークイベント!
元TBSのプロデューサー、ディレクターである角田陽一郎さんのトークイベントに行ってきました。
角田さんのことは詳しく存じ上げてるわけではないのですが、「『さんまのスーパーからくりTV』や『金スマ』などを立ち上げられた有名PがTBSを退社した!」という少し前のニュース知っていたので、ツイッターなどはフォローしていました。
我々、TVディレクターに直接役に立つ実践的スキルをたくさんお話いただきましたが、一般の社会人の方にも役立つような内容でしたので、まとめられた限りの内容をシェアしておきます。
ものすごい早口の方でした。ご本人曰く、明石家さんまと仕事をしていた、というのがその理由らしいです。
※こちらが角田さんのプロフィール。
1970年千葉県生まれ。1994年TBSテレビ入社。ディレクター、プロデューサーとして『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』『EXILE魂』『オトナの!』などの番組を制作。2016年退社。映画監督やネット動画配信会社の設立、多数の本執筆など、メディアの枠を超えて多彩な仕事をする“バラエティプロデューサー”として活躍中。このセミナーでは、テレビとネットの映像の見せ方の違いや具体的なノウハウ、そして“好きなことを仕事にする”企画術について語ってもらう。
ーNHK放送研修センターのHPより
落合陽一さんはeducativeな人
先日、筑波大准教授の落合さんの講義にゲストで出てきた。彼はすごく教育のことを考えていた。落合さんは、講義中、20回、ツイートすれば単位をあげるらしい。そのツイートをあとで振り返れば、講義のどこで盛り上がったかが分かる。
僕たち(角田さんのこと)はそういうエンタメを生み出しているのか(と自問自答)。
”歴史を学ぶ”ことの意味
数学を学ぶということは、ギリシャ以来の数学の歴史を学ぶということ。ビートルズを好きということは、ファーストアルバムの「プリーズ・プリーズ・ミー」から始まって、ラストアルバムの「レット・イット・ビー」までを聴くということ。これはつまり歴史を学ぶということ。
なぜ日本史ではなく、世界史なのか。日本史は世界史に含まれるから。
全ては歴史である、みたいな格言に集約できそうな考え方です。時間の縦軸を見ていかないと、物事の正しい判断はできない、ということかも。
出世が早いから”バラエティー”
1994年にTBSに入社。ドラマなどは何年も下積みがある。バラエティーは早く演出ができる地位にいける。バラエティーは文字通り、何でもできるということだから、ドラマがやりたければ「バラエティーだ!」と言って、ドラマを撮ればいい、と思っていた。
いいキャラ”素人さん”の捕まえ方
街角インタでいいキャラの人をどうやって見つけるか。アンケートや調査会社のリサーチに頼ってはダメ。ちゃんとアンケートが書ける時点で、その人はちゃんとしていて、面白くない。
ではどうやって捕まえるか。街角で(例えば、渋谷パルコの前など)看板一つだけ持って、じっと待つ。面白い人は こちらに寄ってくる。
目がイっちゃってて、口が開いている人がいい。自分のキャラの良さに気づいていない人がいい。
これはなるほど!でした。面白い素人さんは、直接見つけるほかはない、と。でも、だとすれば、こちらの人間を見分ける能力も、同時に問われることになりますね。
ヤラセと演出の差異〜共犯関係を作る〜
さんまのからくりTVで「あなたの夢叶えます」という企画がある。街角でインタして、実際にあなたの夢を叶えます、という企画。
「クジラに触りたい」という女性がいた。
でもこの夢では、明石家さんまや関根勤は笑わない。この番組では彼らを笑わさないといけない。
どうやって笑わせるか。その当の本人と一緒になって考える。ここに共犯関係が成立する。共犯関係が成立=当の本人もやりたいと思っている。これはヤラセではない。
徹底的なインタビューで”イチ”にたどり着く
どうやって面白い夢にたどり着くか。
本人をインタするしかない。何か”イチ”あれば、それを10倍、100倍に演出で面白くすることはできる。
天才はゼロからイチを作り出せる。しかしほとんどの人は天才ではない。誰かのイチをもらわないとコンテンツは作れない。
アウトプットを考えながらインプットするのも大事。何も考えずにインプットだけしていてもダメ。またインプットせずにアウトプットだけしていてもダメ。
例えば女性に聞いてみる?「どうして、クジラに触りたいと思ったの?」
→答えは「幼稚園の頃、ピノキオを読んだから」
しかしピノキオのお話では、ピノキオはクジラに飲み込まれることになっている。すると、触りたいんじゃなくて、飲み込まれたいんじゃん!となる。
→ここでカメラを回す。するとさんまさんも食いついて「何でこの子は飲まれたいんや」となる。
クジラを触る、というのは企画としては簡単。グレートバリアリーフやカリフォルニアに行けばいい。しかし、クジラに飲み込まれるという”困難”があった方が企画としては面白い。制約が企画を生む。
クジラに飲み込まれるとどうなるか。東京海洋大学などに取材に行く。専門家は真面目ならば、真面目な方が良い。「胃に入って、20時間すると白骨化します」などと言ってもらうのがいい。
バラエティーを作るために、ここまで一人の素人さんに向き合うのか、というのが驚き。NHKも素人さんに向き合うことはあるが、番組がすぐドキュメンタリーになってしまう。アウトプットの形態の選択肢が狭い。
会社では企画が通る理由を”考えてあげれば”通る
「金スマ」を立ち上げた時、その「金スマ」というタイトルにTBSの編成局からNGが出た。「サタスマ、ぷっスマなどスマップを冠した他局の番組があるので、それはパクりだ」というのが理由。
しかし、この金曜夜9時台、というのは、かつてドラマで鳴らすTBSのドラマ枠だった。そこで一番、有名なドラマは「金妻(金曜日の妻たちへ)」だった。なのでその枠でバラエティーをやるに当たって、金妻へのオマージュとして、金スマというタイトルにした…という理屈をこねた。結果、タイトルは通った。
”女性”は何歳になっても”女性”である
金スマは最初視聴率が16%くらい。その後、低迷した。おばちゃんにウケそうな企画、ということで、安売りや掃除がラクになる秘訣などをやっていた。全然数字が取れない。
男ってバカだから、性別を3種類にわける。男、女、おばちゃん。
ある時、放送作家の鈴木おさむと話していた。SMAPのライブだと、5歳の女の子も70歳のお年寄りも、みんなキャーキャー言っている。
ここでハタと気づいた。女性は幾つになっても女性なのだ。
女性が、年齢に関係なく一番知りたいものは?→他の女性の人生。
ということで「金スマ波乱万丈」の企画が生まれた。視聴率も上がった。
さんまさん”を”笑わせる さんまさん”が”笑わせる
「からくりTV」はさんまさんと戦っていた番組。こちらの企画でさんまさんを笑わさないといけない。「恋のから騒ぎ」や「さんま御殿」はさんまさんが笑わしてくれる番組。
同様に「とんねるずのみなさんのおかげでした」はタイヘン。とんねるずが本気だから。「うたばん」は超簡単。(石橋)タカさんは、中居くんとご飯を食べに行くのが楽しみだった。
ジャニーズとさんまさん
ジャニーズは企画はプロ(TV制作者)に任せてくれる。「中居をいいように使ってね」などのように。さんまさんはなかなか企画を通してくれない。さんまさんと作った」明石家さんちゃんねる」はそこが辛かった。
自分の意識を変えると周りの環境が”違って”見える
東京フレンドパークを国立競技場で、という発想
2005年2月、会社でタクシー代660円の、領収書の精算をしていた。その時、ニュース速報で「堀江(=ホリエモン)、ニッポン放送を買収」のテロップが流れた。その金額600億円。
660円と600億円の差は何だ…?自問自答した。
それまではTV番組における「フリとオチ」ばかりを考えていた。これからは3割くらいお金儲けのことを考えよう。→自分の意識が変わった。
ニュース速報を見た翌日、TBSの玄関に視聴率の表が貼ってあった。
東京フレンドパーク 22.7%
この番組はスタジオに200人くらいお客さんを入れて収録している。
しかし国立競技場で、嵐をゲストに呼んでやれば、7万人くらい集客できる。入場料3,000円取っても2億1千万の売り上げになる。
こう考えればいい。”視聴率”という仕組みだけで考えなくてもいいんじゃないか。
挫折して見えてきた”貼り紙”
自分の挫折は37歳のとき。それまでは自分のことをTBSの”エースで4番”くらいに思っていた。
しかし、「明石家さんちゃんねる」という番組が2年で終了し、担当番組がなくなった。担当がなくなっても、自分で立ち上げればいいと思っていた。
しかし、部屋から自分の席も消えた…。
干される時は、半沢直樹みたいにドラマティックなことは起こらない。静かに机が消えていく。
そこでトイレの前の掲示板に気がついた。「番組外収入を求める」という内容。そこで企画を出し、ネット動画配信会社を立ち上げた。今のabemaみたいなことをやった。
ネット動画とTVはどこが違う?
TVの発想。1時間番組で人気が出る→尺伸ばすことになる。
ネットで人気が出て、アクセスが殺到する→サーバー代の請求が半端ない。
電波は、電気代だけでいい。人類共通の資産である電波は、借りている。
しかしネットは土管(通信網)を借りている。
人が来れば来るほど、金がかかる。実際、アクセスが殺到しすぎて、視聴数減らそうと言われた。
ネットフリックスだって安心は出来ない。amazonのように通販に付随している動画サービスなら、大丈夫だろうが。
ただし、これらの難点は5Gが解決する可能性もある。
amebaは成功する?しない?
また、グーグルは黒字だが、Youtube単体では赤字と言われている。Youtubeの中の人は、amebaは成功するとは思えない、と言っている(逆にいうと、amebaを続けているサイバーエージェントの藤田さんは怖い。成功しないと言われているのに続けているから。そのクレイジーさが怖い)
DAZN(ダゾーン)が”ビジネス”になるわけ
ダゾーンが2000億でJリーグの放映権を買った。
どうして元が取れるのか?
ダゾーンの親会社 ロンドンブックメイカー。世界のあまねくスポーツを賭け事の対象にしたい。Jリーグは欧州のオフシーズンに賭けの対象にすることができる。だからビジネスになる。
ネットとTVでは”TVの方が自由”
このことは、自分で本を書いてみて分かった。テレビは良い番組を作っていれば、気づいてくれる。
しかし本は気づいてもらえない。メガ書店に行けば何十万冊も本が売られている。
ネットは良いも悪いもなく、気づかれないものは”世の中にない”も同然。ネットは、その”見つけられない”という枷(かせ)がすごい。とことん不自由である。
ただ発信できる自由、というのはネットの方にあるとは思います。それが、世の中から見つけられるかどうかは別として。うまくやればYoutuberにように稼げる人も現れる。それに対してTVはどうしても、限られた人(局の社員や制作会社など)しか作れない。
番組のゼロ次利用とは?
自ら立ち上げた「オトナの!」という番組。TBSからはお金を貰わないでやっていた。スポンサーを募って、一緒に作りましょう、というスタイル。またオトナのFESを実施し、その収入をTBSに還元していた。これがゼロ次利用。
なぜ、この企画が実現できたか?
番組をYoutubeに置けるようにしたから。Youtubeに置けると、スポンサー企業がそこにリンクを貼ることができる。スポンサー企業がお金を出しやすくなる。
しかし、Youtubeに番組を置くのは、TBS編成局は反対だった。地方局が潰れる、という理由で。
そこで、地方局に「オトナの!」を放送しませんか、聞いてみた。地方局は放送しない、と言った。そこで編成局も納得した。
テレビはアリバイ
テレビは芸能界を動かす”アリバイ”足りうる。
プロミスからお金をもらって、武井壮さんに「オトナの!」で講義してもらったことがあった。
武井さんは幾らお金を積まれてもイベントで話すのは断っていた。
その時、受けてくれたのは、その公開収録をTBSで流すから。そしてYoutubeでも流すから。ギャラ自体は少額しか渡していない。
”話したいこと”と”話させたいこと”
TV制作者は、出演者が話したくないことを話させようとする。
出演者は話したいことを話したい。
その場合は、出演者に話したいことを話してもらった方がいい。
ベッキーの不倫騒動の後、TV制作者は当然、不倫のことを話させたがった。しかし、ベッキーには「アロマテラピー」のことを話してもらった。
すると、最近ジャスミンの香りが好き、みたいなことを言う。どうして?と聞くと最近辛いことがあって…となり、最終的に聞きたいことを話してくれる。
”出張伺い”にムカついてフリーに
中田英寿がミラノでイベントをやると言う。中田サイドが費用を出すので、取材に来てくれ、と言う。
向こうがお金を出すと言うのに、TBSに出張伺いを出さなければいけない。 それが嫌だった。
また、こういうことも。
組織に企画を通すノウハウは持っている。「でも、そのノウハウ、TBSでハンコもらうだけのノウハウでしょ。フリーになればそのノウハウをいろんなところで使えますよ」とコルクの佐渡島庸平に言われた。それで辞めた。
出張伺いに嫌気がさして辞める、というのは、なかなかできないですね。路頭に迷いそう。
角田さんはフリーになるまでの地固めがすごいですね。ちゃんと基盤を作ってきたから辞められる。そこが凡人とは違うところです。