歴史探偵

趣味の歴史、地理ネタを中心にカルチャー全般、グルメについて書いています。

「池の水ぜんぶ抜く」なんて思いつきます?

社会的意義のある番組というのは世の中にゴマンとある。

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NHKのクローズ現代プラスやNHKスペシャルの大半は、きっとそうだろうし、制作陣も「この番組は社会をよくするに違いない」と思って作っていると思う。民放だったら報道特集とか報道ステーションなどもその類の番組に入るだろう。

 

しかしテレビ東京の「池の水ぜんぶ抜く」はそれらNHKに代表される"社会性を全身にまとった "番組とは全くもって一線を画し、高いエンタメ性を備えつつも「外来生物に侵される日本の生態系を考える」と言う啓蒙的役割を自然に果たしている。今日、同番組をお正月スペシャルで初めて見て、そのことを強く感じた。

 

番組はいたってシンプル。全国のどこかにある"池"のうち、外来生物ブラックバスブルーギル、アカミミガメなど)が跋扈している池の水を抜き、それらの害獣を専門家、住民の協力を得つつ取り除く、というもの。そのプロセスの一部始終を見せる中で、日本の淡水環境にはどのような外来生物がいて、それらによってその環境がどのような状況に陥っているか、視聴者が楽しみながら知見を得られるようになっている。

 

そのような知見を得させること自体は仮にもNHKなら得意ワザだろう。一方、自分が衝撃を受けたのは、それを「池の水を抜く」という"アッ"と驚くような演出でバラエティーにまで昇華させたテレ東制作陣の発想力である。

 

同番組の誕生に関するネット上の記事を読むとと、担当プロデューサーによる企画書の段階では、①池の水を抜くだけで2時間持つはずがない②池の底から何が出てくるか分からない(=面白いものが出てくるかわからない)状況でGOサインは出せない、などの理由で、社内から猛反対を食らったという。

しかし担当プロデューサーは、"危険生物から日本を守れ"という「社会的意義」を強調することで、企画を通したらしい。

 

仮にそういう理屈づけを現場側が行ったとしても、大局からの判断でそれを通したテレ東上層部に、やはりセンスを感じるし、昨今のドキュメンタリー・バラエティー路線で同局が成功しているのもむべなるかな、という感がある。

 

「池の水を抜く」なんて行為、誰も思いつかない(少なくとも自分はムリだ)けど、実際に目の前で、やられてしまうと、「池の中から何が出てくるんだ…」と言うドキドキ感やら、幼い頃、胸をトキめかせてザリガニやタニシを取った淡き思い出感やらがいたく刺激され、番組の展開に目が離せなくなってしまう。まことに巧みである。

 

かつ、地域の人を巻き込むイベントとしてのうまさ。「池の水を抜く」作業に参加した人はSNSで自分たちが行なっていることの意義を積極的に拡散するだろうし、番組を見ている視聴者サイドも、自分の住んでいる地域の、見慣れた池を思い浮かべ、番組で進行している事態を"ジブンゴト"として捉えるだろう。これまた実に巧みである。

 

最後に、上述したように、この番組からは自分の身の回りの生活環境についての知見・教養が、楽しみながら肩ひじ張らずに学べる。鯉(コイ)が外来生物で駆除の対象だとは、かの魚についての従来のイメージを裏切りすぎるほど裏切って面白い。

 

「タレント力ではなく企画力で勝負するテレ東」とは昨今のテレビ批評でよく見る言説だが、「池の水をぜんぶ抜く」はその言説の正しさを真っ向から証明する番組だった。