歴史探偵

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縄文 1万年の美の鼓動@東京国立博物館 平成館・感想

"縄文"は思ってるよりずっと深い。

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縄文のイメージがアップデートされる

縄文時代。イメージは…?と言うと教科書に出てくる相当古い時代、弥生時代より前の時代、稲作はまだそんなにはやっていない、土器に縄目の文様である”縄文”が刻まれている…。そんなところでしょうか。

ただ最近、「稲の日本史」という本を読んで、縄文時代にも米は”焼畑”で作っていた、との記述を読み、自分の中の縄文時代のイメージも多少ふくらんできたところではありました。

www.rekishitantei.com

 

そんなふうに縄文時代に多少も興味がある今日このごろ、東博で縄文に関する展覧会があると言うので行ってみました。「1万年の美の鼓動」という副題にも心惹かれる。縄文に”美”を見出すというテーマ設定がとても新鮮です。

見終えると縄文についての知識が二段、三段にアップデートされて、非常に面白い展覧会でした。やはり展覧会の現場に足を運んで、2時間ほど自分の身体を展示物に囲まれた空間に浸すと、得られる知見の刺さり方が違います。

この記事では今回、自分なりに心にグッときたポイントをまとめておきます。なお訪れたのは7月29日()の午後3時。混んでて鑑賞に支障を来たす、と言うほどではなかったですが、それなりに人はいました。夏休み期間ということもあってか、親子連れの姿も目立ってました。

※写真撮影・携帯(スマホ)は出口付近の撮影コーナーをのぞいてNGでした。なので記事内にも展示の写真はありません。

 

縄文時代っていつ頃?

展覧会の資料によれば、縄文時代を年代的に規定すると以下のようになります。

縄文時代 

  • 草創期 紀元前11000〜前7000
  • 早期      前7000〜前4000
  • 前期      前4000〜前3000
  • 中期      前3000〜前2000
  • 後期      前2000〜前1000
  • 晩期      前1000〜前400

のちのち、詳しく書きますが、時代によって土器や土偶は進化・変化を遂げます。ざっくり年代のイメージを持っておいた方が理解が深まるように思います。

 

美を成す材料の豊かさ

第1章は「暮らしの美」。土器をはじめ、石斧や釣り針、装身具の耳飾りなど生活に根ざした様々な道具・用具を”美”という観点から展示してあります。それらを見て気づいたのは、製作に用いられている材料の豊かさ。例えば「漆」を使って赤に塗られているものなど「え、輪島塗?」と思うぐらい表面がつやつやしているし、黒漆を使って文様なども描かれています。鹿の角は漁に使う銛(もり)や針に使われる。装身具には貝やサメの歯などが。特に貝は縄文人にとって憧れだったらしく、貝が採れないところでは貝の代わりに土を使ってブレスレットを作るが、おそらく使いづらかっただろうなどという説明も。

縄文人たちが自然と”交歓”しながら生活を送っていたんだ、よく分かりました。逆に言うと自然を知らないと生きていけない環境であったんでしょうね。

 

縄文土器はワンパターンではない!

第2章のタイトルは「美のうねり」。主に縄文土器の変遷が紹介されていますが、ここの章の冒頭の説明が個人的には非常に重要だと思いました。

ざっくり言って、縄文土器は「前期」「中期」「後・晩期」でその特徴が違うというのです。

  • 前期…爪、指先、縄、木、竹等で文様を施す。
  • 中期…粘土を貼り付け立体的に造形する。
  • 晩・後期…描線によって描かれた構図の美しさ。

 のように区分できるらしいです。

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国宝 火焔型土器(館外の掲示物より)

例えばこの火焔型土器など、粘土を貼り付けて精巧にデザインされた中期の”立体的”縄文土器の代表で、いわゆる縄目の縄文土器とはずいぶん目指している美的到達点が違う。こういう大きな区分を頭に入れておくことは大事だな、と。

それにしてもこの火焔型土器の造形は見事というか、よくこんなまさに”火が燃え上がるような”3次元の表現を思いついたな、と思います。縄文時代の日本のどこかにピカソみたいな天才が生まれて、その独創的な表現に他の人が撃たれて、同じような形を生み出していったんじゃなかろうか…。そんな勝手なストーリーを考えてしまうほど”ド派手”な一品。これに美を認めた岡本太郎はさすが。彼が縄文の美を”発見”したことで、日本美術史の始まりが飛鳥から縄文まで繰り上がったらしいです。

またこの第2章ではその文様の構図が美しい土器も展示されています。幾何学的模様が土器をくまなく覆う様子は、まるで土器に描かれたモンドリアンの抽象絵画のよう。ほんと縄文土器は一筋縄ではいかない(縄文だけに…。スイマセン、下手なシャレです・笑)。

 

小休止するならココ

第3章は「美の競演」と題され、世界各地の土器と日本の土器とか比較検討されています。が、なんというかイマイチ狙いがはっきりしないコーナーな気がしました。「ま、確かに日本の縄文土器とは違いますね…」以上の感想が持てず、ちょっと流してしまった。ただ、縄文と同時代の世界では、ヨーロッパよりは中国、インド、中近東あたりの方が文明は進んでいたんだな、というのは感じました。バルカン半島も、そういう東方世界に近かったので、今のドイツ、フランスなどヨーロッパ中央部よりは先進的だったようです。

 

縄文美の国宝エースが集結

第4章「縄文美の最たるもの」はたった4点しか展示がないにも関わらず、見応えがありました(7月31日からは2点追加されるもよう)。全て国宝です。

展示されていたのは以下のもの。

  1. 火焔型土器
  2. 土偶 縄文の女神
  3. 土偶 合掌土偶
  4. 土偶 中空土偶

1.の「火焔型土器」は先ほども紹介しました(実際の展示物としては別のもの)。こちらの土器は国宝です。ちなみに「縄文土器・土偶」(角川ソフィア文庫)によると、この「火焔型土器」というのは現在の新潟県下の信濃川中流域を中心とした限られた地域にしか出現しないとのこと。縄文土器の地域的特徴を把握するのも面白そうだ。

ところでこの「縄文土器・土偶」(角川ソフィア文庫)は展示を見終わった後に、縄文への理解を深めようと購入したのですが、実に良い本です。写真多め。詳しくなさすぎない、必要にして簡潔な文章であり内容です。展示の副読本としておススメ。

縄文土器・土偶 (角川ソフィア文庫)

縄文土器・土偶 (角川ソフィア文庫)

 

ほんとは図録を買えばいいんですが、そこそこ値段が張るのと、大型本で家のスペースを取るので躊躇してしまう。

 

2.「土偶 縄文の女神」」はとにかくクールでスタイリッシュ。土偶というより”作品”と言ってしまいたくなるほど現代の彫刻のよう。実物はこんな感じ。

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土偶 縄文の女神(館外の掲示物より)


ガウチョパンツをはいた女性を、小粋な彫刻家が造形したらこんなふうになるのでは、と思えるほど洗練された一品。気に入ってマグネットまで買ってしまった。

 

3.「土偶 合掌土偶」は文字通り、合掌して三角座りしている人の姿。

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土偶 合掌土偶(館外の掲示物より)

数千年前の、文字を持っていないような時代の人も、祈りの時は手を合わしていたのかと思うと親近感がわきます(実際は祈りではなかったかもしれませんが)。でも手を合わせて祈る以外の行為ってあるのだろうか。感謝という行為ならあるかな…。

 

4.「土偶 中空土偶」は中が(なぜか)空洞な土偶。中が空洞で表面が薄いので、ものすごく技巧が必要だったらしいです。

 

土偶はワンパターンではない!

第5章は「祈りの美、祈りの形」。ここで面白いのは土偶の進化が見られること。もともと土偶は乳房や顔面を表す小さな”かけら”でした(そもそもそれ自体、へえ~という驚きなんですが)。それが大きくなりデザインも精緻になって、今、自分たちがイメージするようないわゆる”土偶”になっていきました。なので、いわゆる”土偶”ときいてイメージする典型的な形はある程度、土偶文化が発達したあとのものということになります。

バリエーションという意味でも豊か。腰に手を当ててモデルふうにキメているものや、子どもを抱いているもの、土器の口の部分にくっついているものなど、想像もしなかった造形に触れることができて非常に楽しい。縄文人だって気取るときもあれば、子どもをあやすこともありました。同じ地続きの人間なんだなあと思う。

あとここでインパクトあったのは「石棒」と呼ばれる磨かれた長い石の棒。ズバリ、男性器の象徴です。土偶も乳房や赤ちゃんを宿す腹部を強調したものが多いし、縄文人にとって子孫繁栄がいかに切実な関心事であったのか、ということが実感できます。シンプルな精神のあり方です。少しうらやましくなるほどの。

 

最後に

縄文時代の美の”かたち”から縄文人の心に触れる展覧会。見終えたらがぜん、”縄文”のことが気になり始めると思います。自分はまず、土器・土偶の地域ごとの分布など調べていきたいです。旅行先の考古博物館に行くのが楽しみになりそうだ。

 

会期

  • 東京国立博物館 平成館 7月3日(火)〜9月2日(