歴史探偵

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地方最強都市・福岡から何を学ぶか トークイベント・感想(2018年3月29日@B&B)

都市を元気にするには時間がかかる。

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最近、多少地方活性化に関連する仕事をしている。当然、そういう方面のネット記事もよく読む。「最近、福岡市がとても勢いがある」というのもそれらの記事から大いに感じていた。

そんな折「福岡市が地方最強の都市になった理由」という書籍の刊行記念イベントが開かれるのを知り、行ってみることに。ちなみその本というのはこちら。

福岡市が地方最強の都市になった理由

福岡市が地方最強の都市になった理由

 

 

イベント出演者は以下の面々である。

  • 木下斉氏…上記の”福岡本”の著者。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事。
  • 古田大輔氏…福岡県出身。BuzzFeed Japan創刊編集長。
  • 日野昌暢氏…福岡県出身。博報堂ケトルプロデューサー。

 ※イベントの概要に関しては、会場となった本屋B&BのHPをご参照ください。

bookandbeer.com

 

木下斉さんについては、以前からツイッターなどをフォローしていて、その歯に絹着せぬもの言いで正論を説かれるさまに、胸のすくような思いをしていた。それは例えばこんなツイート。

このツイートから見てもわかるように、「稼ぐ」「街を経営する」という視点をとても大切にされている方。実際に全国各地を回って地域活性化に携わったり、アドバイスされたりしている。今回は「福岡から何を学ぶか」というイベントのテーマ自体に惹かれたのもさることながら、木下さんご本人にお会いできるというのも楽しみだった。

 

出演者のおひとりは狂犬?

イベントが始まった。

司会の日野さんから木下さんのニックネームが「狂犬」であることが明かされる。思ったことを、ところ構わずズバズバいうところからそう呼ばれるようになったらしい。でも木下さん言わせると、地方活性化のための現場などでは、その場の空気や偉い人に遠慮して、思ったことをはっきり言わない人が多いのだそうだ。

自分など思わず「わかるわかる。きっとそうだろうな…」とうなづいてしまう。自分の会社などでもまさにそうだから。思ったことをはっきり言わない会議が多いから。日本的大企業などどこもそうじゃないだろうか。

地域も企業も空気ばかりを大切にしてゆっくりゆっくり弱くなっていく。太平洋戦争中の軍部は軍内部の空気ばかりを気にして、例えば無謀な戦艦大和の特攻などを強行し、結果敗戦を迎えた。このあたりの「空気に縛られてやるべきことを実行できない日本人の病」については、すでに1970年代に評論家・山本七平が「空気の研究」で論じていたのに…。本当に日本って変わらないな。

 

本当に福岡は地方最強?

さて、福岡市は実際に「強い都市」なのか。それに応えて木下さんは言う。ここ10年ほど地方の現場でよく福岡市に名前がよく挙がるらしい。かつては東日本では福岡はあまり意識されない土地だったのにも関わらず、だ。

それもそのはず。福岡市は今や東京をのぞく日本五大都市の一角を占めるに至った。

長らく日本五大都市と言えば、横浜市、大阪市、名古屋市、札幌市、神戸市だった。その神戸市を福岡市は人口で抜き去った(2015年国勢調査速報集計結果)。

抜かされた神戸市は現在、あらゆる会議で、どうすればかつてのような勢いと取り戻せるか、喧々諤々議論しているともいう。神戸市と言えば、「神戸市株式会社」と言われるほど、都市経営・都市ブランド化が巧みで(六甲山を削り、ポートアイランドを造成し、神戸ポートアイランド博覧会を開催した)かつては「地方最強都市は神戸市」とも言われていた。そうであるがゆえに福岡市に抜かれたショックが大きいらしい。

人口そのもの以外の指標でも「人口の伸び率」「若者人口の比率」などでもトップクラスに食い込んでおり、数字上でも福岡の優位は証明されている。

 

どこかを「真似をする」のではなく、これまでの「常識を疑う」 

木下さんは、都市経営を成功させるのに大切なのは他都市では見られないことをやることだ、という。その観点から福岡市の5つの「常識破り」について言及されていた。

  1. 民間主導・民間投資のまちづくり
  2. 「競争」と「協調」で強くなる
  3. 素早く「撤退」する
  4. 周りに流されない
  5. 伸びしろがあるのに、伸ばさない 

「競争」と「協調」で強くなる

この5つの「常識破り」について今回のイベントで特に語られていたのは、まず 2.の「競争」と「協調」について、のところ。

福岡では戦後すぐの頃から、天神地区の百貨店・岩田屋と周辺商店街が一体となって買い物エリアとしての天神をプロモーションしていったのだとか。天神地区は同じ福岡市内の博多地区との切磋琢磨(=競争)は意識しつつも「敵は(福岡市の)外にあり!」と一致団結して、商圏としての天神地区を強くしていったというのだ。個々の店が商売敵として潰し合っていった時代に、商圏内での協調路線を選んだのが福岡の常識破りなところなのだと、木下さんは言う。

 

素早く「撤退」する

もう一つ今回のイベントで語られていたのは 3.素早く「撤退」する、というところ。

時に1960年代。高度経済成長期の日本は「工業」によって地域を富ます、というのが常識だったらしい。それで当時の市が策定する「第一次福岡市総合計画」にも工場誘致計画が説かれていた。しかし結果は工場の誘致が叶わず、福岡市の工業化は非常に厳しくなった。

通例の自治体の計画だと、一旦「工業化」と決まった方針はなかなか撤回できない。しかし1966年の「第二次福岡市総合計画」では文化・教育を含む第三次産業化を中軸とする開発へと力点をちゃんと移している。

その方向転換へ大きく資することになったのは地元・西日本新聞による新聞連載。福岡市に詳しい専門家の意見をうかがいつつ、市民も参加するシンポジウムなどで今後の福岡市のあるべき姿について、連載を続けたらしい。その連載が出した答えが、福岡市の第三次産業の重点化だった。新聞社という民間が示した指針を柔軟に受け止める福岡市政。これもまた福岡市の「常識破り」の一面なのだ。

この民間の声に耳を傾ける福岡市政について、BuzzFeed Japanの古田氏がコメントされていた。官僚・政治家は自分たちが正しいと思っていることでも、既得権益勢力などに遠慮して口に出せないことというのは多いらしい。なのでメディアや有権者が「それはおかしいのでは?」と声をあげてくれるのがとてもありがたい、というのだ。

私見だが、これも日本人の空気第一主義が成せる業(わざ)な気もする。ほんと日本人は、外から他者が介入しないと自ら(の組織)を変えるのは難しいんだなあ。だから木下さんのようなズバズバ言う人間がどこでも必要とされるのだろう。

福岡市も過去の積み重ねがあって今がある

前段で見たように、現在の福岡市の強さも、一朝一夕に成ったわけでなく、戦後からの先人たちの正しい判断の積み重ねの結果であるということが分かる。なので、これからも長期的な視野で福岡の魅力を磨き続けないと、いつもでも「地方最強都市」の称号にあぐらはかいていられない、と木下さんは言う。

最後に、木下さんが将来の見通しらしいことを一つ述べられていた。それは福岡市はライフスタイル系の産業を育てるべきなのではないか、ということ。福岡市は都市としての集積があるのに、ごく近くに海も山もある。なので「遊べる都市としての福岡市」という観点を打ち出し、アウトドアグッズ等を製造・販売するような産業が伸びるようにすればいいのでは、ということだった。

海や山は日本のどこにでもある。実はこのアドバイスはどの地域に対しても有効だ。問題はそういう自然に対して、どういう付加価値をつけていくか、どうやって自分たちの地域の海や山を選んでもらうか、ということに尽きるのだろう。

綿密な取材に基づいた本の刊行記念トークイベントだっただけに、地方活性化に関心ある自分のような者にとっては非常に示唆に富む、有意義な時間であった。 当該本も買ったので、もう少し地方最強都市・福岡に対する研究を続けてみようと思う。

 

※秋田県在住の漫画家さんが地方活性化の真実を鋭くえぐった作品です。

www.rekishitantei.com