歴史探偵

趣味の歴史、地理ネタを中心にカルチャー全般について書いています。

ブラタモリ那須・感想〜人間が不毛の地に挑んだ記録〜

過酷な環境だからこそ達成されることがある。

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素直なテーマ設定

冒頭はいつも通りタモリさんと林田アナウンサーのゆるっとトーク。タモリさんの「森田」という姓は那須が発祥というトリビアがタモリさんから明かされます。

牧場で牛と戯れるタモリさんが少しあって、いつものように”タモテバコ”によるテーマの提示。「なぜ那須は一大リゾートになった?」奇をてらわない素直なテーマ設定です。

 

明快な対象エリア設定

割とふつうに学芸員さん登場。那須を研究して30年という金井忠夫さん。

続いて今回旅する那須の地理的情報が提示されます。東京在住の自分にとって那須は、ボワっと”栃木の方かな…”くらいの地理意識だが、言われてみると関東の最北辺なんだな、と改めて思う。

番組的にはサクッと2つの地域に注目!と言い切ってしまい

  • 那須塩原市
  • 那須町

が提示される。この整理のされ方はのちのち内容の理解を助けていました。

 

矢継ぎ早だった前提情報

学芸員さんから年間観光客数の問いかけ。1400万という数にタモリさんが驚く。ここで観光客数をナレーションで処理せず、タモリさんとのやり取りの中で出してきたというのは「皆さんが思っているより那須の観光客数は多いんですよ」ということを視聴者に印象づけたいためでしょうか。

さらに続けてリゾート地としての那須の魅力を「酪農」「温泉」「レジャー施設」「別荘」の4項目で整理。那須が”超ド級有名観光地ではない”がゆえ、那須についての一通りの知識が埋め込む必要がある、との判断かも。情報が矢継ぎ早に飛んでくる中で林田アナウンサーのアイスクリームを食べる少女へのツッコミでホッと一息。それを狙ってあの酪農の写真をチョイスしていたとしたら、制作陣の目端が効いています。

馬車に乗って「那須が一大リゾートに手がかり」を探しに行くという設定で進行。ナレーションでそのシーンの意味合い(手がかりを探しに行く)が何度も説明されたり、農場についての情報が学芸員さんから提供されたり、けっこう説明が続く。ちょっと情報過多な気が…。しかも学芸員さんの説明がヘンに上手いものだから引っかかりがなく、余計そう思ってしまいます。「明治政府の高官がたくさん農場を開いている」のフリップが出て、タモリさんが「すごいな〜。こんなにいる!」とその多さに驚いたとき、ようやく息が抜けた。やはり旅・散歩番組では出演者の感情表現が大切。

このタモリさんの反応の後なら「明治高官たちはヨーロッパの真似をして農場を開きたかった」云々の情報が素直に入ってくる。その情報を知りたい心の構えがこちらに出来ているから。

 

タモリさんの発見感から”ドライブ”する

続いては「なぜ広大な農場を開くだけの土地が残っていたのか」というテーマで移動。その途中で絶縁体のガイシをめぐってのゆるいトーク。これは台本にあったのだろうか。番組のお勉強的ムードを弛緩させるのに好都合な展開です。

本筋に戻って畑を観察。タモリさんが鋭く「小石が多いですね」と指摘。今回初めてのタモリさんによる発見感あり。この発見感を出発点にシーンが展開すると、こちらの”もっと知りたい欲”に火がついているので先々の展開が楽しみになります。

新たな学芸員、伴敦志さんが登場。伴さんは「なぜ、これだけ石が多いのか」と質問をここだけは林田アナウンサーにふった。宇治編の記憶を呼び起こさせるための呼び水でしょうか。宇治の回のVTRも使いつつ自然に扇状地の説明に入ってゆく。宇治編の扇状地のシーンはタモリさんが非常にファニーだったので、ここの展開は巧みでした。思い出し笑いをしてしまった。ただ山手線の内側が6個分という説明には那須と東京の地図を重ねてもよかった気が。

「石が多い」という事実に加え「水が確保できなかった」という事実を上乗せし、広大な原野が明治まで残っていたことの理由づけが完成。続いてその原野に水を確保するための那須疏水の説明に移ってゆく。

疏水の建設スピードが驚異的に早かった、というのだが、他の疏水建設の常識的スピードに見当がつかないので、よくわからなかった…(のちのちの場面でのフリにはなっていましたが)。

 

今回いちばん面白かったのはここだ!

フリップ上で那須疏水と川が交わる点をタモリさんに発見させ、その交点を見に行く展開。一級河川の蛇尾(さび)川が見えるところまでやって来ました。タモリさんが「水がないね」といい、林田アナウンサー「鳥の鳴き声しか…」と応じる。出演者が現場の雰囲気を体感している、なかなかに貴重な間合です。結局、このような”間合”と番組上必要な”情報”をどのように配分していくががブラタモリの面白さを決定づける。ここからの一連のシーンが那須編で最も面白く感じたところでした。

水がどこに行ったのか、タモリさんたちが実際に水を撒いて実験してみる。見ていてとても楽しいです。結論として伴さんから扇状地特有の水無川についての説明がなされる。続いて水無川だからこそ可能だった短期間の疏水工事の話へ。ここでようやく工事期間の短さに言及する必要があったのか、と納得しました。

 

タモリさんだからできる番組

シーンは大きく展開し那須町エリアへ。冒頭に那須を二地域に分けていたことがここで効いています。どこからどこへ移動したのかたいへん分かりやすい。

「南ヶ丘牧場」にてアイスクリームのちょうどいい尺のゆるシーンを挟んで本題へ。この牧場こそ酪農が観光資源になったきっかけであったことが示されます。その理由を牧場に転がっている大きな石を発端として解き明かして行く。石に触れるタモリさんのテンションが上がる。前半の那須塩原市部分よりも本題への入り方がスムーズだと思う。

標高が高いため農業はできず、酪農しか選択肢がなかった那須町。酪農が観光資源になったのは、温泉地に来ていた客でした。牧場の経営者は釣り堀や満州由来のフードで観光要素を加えていった。ここはタモリさんもあえて温泉は見に行かず(そこまでロケする余裕がなかったのかも)、学芸員さんの簡潔な説明と草彅さんのナレーションで進行する。ゆえに情報の整理として分かりやすかった。番組構成上のメリハリが効いている。

続いて湖(りんどう湖)を利用したレジャー施設へ。 タモリさんのアトラクションへの反応などほっこり要素を交えて、本題へ。「レジャー施設誕生の秘密は何か」。

こんもりした山を見たタモリさんが山体崩壊の「流山(ながれやま)」とすぐに指摘。いや〜ほんと何でも知っている人だなあ。マジに驚き。当たり前だけど抜群の知名度を誇るタモリさんでも知名度だけではこの番組のメイン出演者は張れない。唯一無二の人だと改めて感じる。

流山を利用して農業用ため池を造り、さらにその池を箱根・中禅寺湖等に見立てレジャー施設化していった歴史が語られる。この辺りタモリさんをりんどう湖の見えるところに連れて行き、学芸員と話をしただけだけど、立派なシークエンスとして成り立っていた。タモリさんの、求められている反応を易々とこなす能力と情報の整理がうまく出来てたがゆえの所産だと思います。

「過酷な環境の中でも常に道を切り開く精神が那須を一大リゾートに変えていったんですね」と、草彅さんのナレーションが納得感満点。このナレーションを響かせるための積み重ねが丁寧に出来ていた回でした。

 

最後に

前半は少し情報がお腹いっぱいで後半の方がいろいろな事実が素直に頭に入って来ました。そう感じたのは情報の提示の仕方にも関係があると思います。前半は学芸員さんが「なぜだと思います?」と答えさせる形式を少し多用しすぎていた。なのでタモリさんの反応が情報を提示するための手段としてしか扱われていませんでした。「ああ、また問いかけするのか」「情報の引き出し方のパターンが同じだな」みたいな。その辺りもう少しナレーションでサクッとした情報提示だったら、もっと面白くなっていた回だった気がします。

 

 ※他の回のブラタモリの感想です。

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