宇治というブランドネーム、お茶に合った地形。お茶とワインってすごく似ていると思った。
冒頭、まだ早朝の(だと思う)宇治橋の橋詰でのタモリさんと林田アナウンサーのトーク。平等院の開門前にロケをしてしまう都合上かな。
自分は林田アナウンサーの回は初めて見たが、少し緊張されているみたい。まだ3回目というから無理もないところか。
さて、いつもようにテーマの提示。「なぜ宇治は”天下一の茶どころ”になった?”」今回はどストレートなテーマである。
ここからは立ち止まってのトークが展開。茶どころ・宇治の歴史の説明が始まる。
- 宇治は高級茶の「宇治茶」を作ってきた昔からの産地
- 高山寺の明恵が宇治という土地に目をつけた
- 鎌倉時代に宇治茶の栽培が始まる。その頃からお茶を出していた店がある。
- 「宇治川両岸一覧」という江戸時代の絵図に茶屋が描かれている。
絵図まで出てきて、ちょっと説明長いかな~、もうそろそろ動いてくれ~と思ったところで、タモリさんが「そこに”通園”ってありますよ」と店の看板を発見。発見感でロケが動き出すのは気持ちいい。
店で迎えてくれたのは24代目というまだ若い当主の方。柔らかい京都弁が耳に心地よい。店内には一休禅師が彫ったという彫刻や秀吉から賜ったという釣瓶などが飾ってある。タモリさん「お宝ばっかりだな」とボソッと言うもあまり番組はかまわずに先に。
タモリさんが茶を嗜む。抹茶が30gで5400円というびっくりな価格にも林田アナウンサー、コメントはあまり出ず。やはりまだ緊張されているのだろうか。
このシーンは、番組サイドとしては、ここは鎌倉時代から続く老舗に、とりあえず入っておきたかったという意図か。あまり話の深堀りはしなかった。まあ鎌倉から続く老舗をサラッと済ませることができるのは、今後それ以上の大きなネタが仕込まれているということだろう。
オープニングテーマが明けると、出演者は平等院へ向かう。が、あまり歩きの狙いがはっきりせず、視聴者がどういう気持ちをのせていいか分からない。…と思っていると、草彅さんがこちらの気持ちを汲み取るように「お茶と平等院、一体どんな関係があるんでしょう」とナレーション。ここにこの言葉が置かれていることにホッとする。
平等院では「宇治は平安貴族たちのリゾートだった」という話。この話は面白い。宇治がブランドある土地だった、という視点は京都の人もあまり持っていないのでなかろうか。同じく貴族たちの別荘地だった嵐山・嵯峨野との共通点を思う。当時の都市だった洛中からほどよく離れていて、かつ山と川が近い。これが当時の別荘地の条件。ただ現在の”行楽地度”でいうと、嵐山・嵯峨野の方が名が通っているけれど。
あと長年京都に住んでいた地元感でいうと、宇治の方がヤンキー度がかなり高いです。
さて、平等院鳳凰堂の前に立つ出演者たち。タモリさんがなかなか深いこという。
両翼は装飾的な意味以外にあまりないでしょ。鑑賞するためのもの。よく出来ている。
鳳凰堂の宗教的な意味よりも純粋にデザインに関する発言。「なるほど!たしかに」と思い、話も建物の意匠の話に行くか…と思った。するとそちらではなく、まさに鳳凰堂の宗教的意味合いの話に。鳳凰堂は極楽浄土の阿弥陀如来の宮殿で、池は極楽浄土を表現するには欠かせない装置、との説明が。宇治橋と並んでここでも先生の説明を拝聴するシーンが続く。このあたり、ちょっと話だけで展開しすぎな気がする。ただ、次シークエンスへの展開の必要上、池の話はしておく必要があった。
平等院の池の水源探し。実は池は湧き水で出来ていたという。ここで出された扇状地のCGは分かりやすかった。こういうCGを見ているとこの番組が地学教育に果たした役割はほんと大きいと思う。そのままの流れで、扇状地が茶の栽培に適している理由が語られる。番組がカバーする領域が農学にまで及んできた。タモリさんと軽やかな演出がタッグを組めば、どんな学問領域にも進出していけると思う。
そして、パターンの地図を見ながらの川探し。別に歩いているわけではないが、出演者が一つの地図を見ながら主体的に何かを探している画は楽しい。川が見えない、と戸惑う林田アナウンサーもかわいい。
宇治市役所の前に移動。周りの谷・崖地形と暗渠の川を確認する。ここでタモリさんに”土砂が憑依”する。土砂の気持ちのセリフを吐く。これは、すごい…。
川を流れて山地から扇状地に出た瞬間の土砂の気持ちを考えた人間が今まであっただろうか。こんな学識豊かな珍芸を、誰でも知っている人気者がテレビカメラの前で披露するのだからタモリさん、そしてブラタモリは最強である。
さらに扇状地の上を歩く。扇状地の始まりは何の変哲もない交差点。ロードサイド感を醸し出すガソリンスタンドまである。
さらにお茶の町になった証拠を探して歩く。茶畑を発見して中に入る。そこで川が運んできたとして砂と石がアップの映像で紹介された。そのまま宇治が平安貴族リゾートとしてのブランドから茶の産地としてのブランドに転換していく歴史の話へ。
宇治茶のルーツをたどって日常すぎる風景を歩いていき、そこで発見したただの小石や砂をきっかけに宇治の壮大なストーリーが語られる。その足元のただの石と味わうべきストーリーとのギャップが面白いし、そのギャップがあればあるほどブラタモリらしい。もちろんそのギャップが味わうに足るだけのものにするのは、そこに至るまでの構成が命なわけだが。
続いては宇治橋通りで、家々を貫く太い梁の発見から長屋門の解説、そして、茶師が特権階級だったという歴史的解説へ。このシークエンスは目に見える建物の話から説き起こしているのがいい。
さらに室町時代から500年間、栽培されている秘蔵のお茶の木を見に行く。500年といっても生きているお茶の木。毎年新芽も顔を出す。こんな文化財的樹木なのにたいした観光価値も担わされず、ふつうに茶農家の一角にひっそりと生えている。歴史ある街の凄みだなあ。
宇治茶のうま味を引き出す覆下栽培のウンチクがあり、地形によるお茶の味の違いの話へ。扇状地は味が濃いお茶、標高の高い段丘上は香りの高いお茶が出来るという。まるで同じブドウでも違う畑で栽培すると味が異なるというワインのようだ。
(番組では映像でサッと画に映っただけだったが、扇状地のお茶は「浜の茶」、段丘上のお茶は「山の茶」というらしい。地元の人の地形に対する意識を映し出しているようで興味深い)
さらに違う茶葉を巧みにブレンドすることで顧客の好みに合ったオーダーメイドの味にするのが、宇治の茶師の腕の見せどころだと言う。タモリさんはこのブレンダーの存在をウィスキーになぞらえていた。お茶、ワイン、ウィスキー…嗜好品の飲み物の世界は奥深い。
お茶というテーマに絞りきって、地形、栽培方法、ブレンドなど様々な角度から、お茶の知られざる姿に迫った今回のブラタモリ。かなり楽しませてもらいました。
最後に。お茶を引く石うすが重くて回せなかった林田アナが「抹茶スイーツ美味しいとか言っててすいませんでした」と思わず口に出していた。冒頭、スイーツを食べた演出も生きつつ林田さんの心からポロリとこぼれたコメントも聞けてチャーミングなシーンでした。