歴史探偵

趣味の歴史、地理ネタを中心にカルチャー全般、グルメについて書いています。

東京・穴場の名庭園をめぐる~ホテル椿山荘 庭園~

無料で味わえる庭園の粋。

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意外と知られていない名庭園がある

東京・文京区関口というところに椿山荘(ちんざんそう)という老舗のホテルがあります。正直言ってあまり用事のある場所ではないし、どの駅からも少し歩く距離にあって(最寄りは東京メトロ・江戸川橋駅)目立つ場所ではないので知らない人も多いのですが、ここには散策するのに実に楽しい名庭園があるのです。しかも無料です!

※場所は下記です。

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この庭園、江戸時代の画家・若冲ゆかりの石像があったり、全国から銘木を集めていたりとたいへん趣向も凝らしています。

先日、妻が友人からもらったクーポンでホテル椿山荘にて夫婦でディナーできる機会があったので、ついでにその庭園をめぐってきました。どんなお庭だったかレポートします!

 

庭園の全体図は?

ホテルのHPに掲載されている庭園の見取り図です。

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自分たちはホテルの建物から庭園に入りました(図の赤丸)。この庭園にはもう一つ、神田川沿いからの入り口(冠木門・かぶきもん)もあります(図の青丸)。もし江戸川橋駅から来るならば神田川沿いから入った方が高低差がなくて全然ラクです(ホテルの正面に廻ろうとすると、江戸川橋駅からの登り坂はけっこうキツい)。

この冠木門の開門は10時~21時半まで。夜からでも庭園に入ることが可能です。

 

ちょっとした森?というくらい茂る木々

庭園に足を踏み入れると空を埋めつくすほどの青もみじ。

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自分が訪問した時間はもう17時を回っていて、しかもその日は曇り空。もしこれが陽光あふれる晴れの日だったらどんなにきれいだったろう、と思った。

元々、明治の元勲でもあった山縣有朋(長州出身。日本陸軍の基礎をつくった人物)が作らせた庭園がここにはあったのですが、空襲で庭園も建物も灰燼に帰します。戦後、一万本以上の樹々を植え、庭園を復活させたそうです。この樹木全部を人が植えたものか…と思うと何だかすごい。

※歴史的経緯など詳しくはホテル椿山荘のHPを参照してください。

歴史 | ホテル椿山荘東京【公式サイト】

 

”3D”的に楽しめる庭園

青もみじの奥に景観にアクセントを与えるように三重塔が建っています。写真を見てもらえればわかると思いますが、塔は写真を撮った位置からかなり高いところにあります。このように庭園内に大きな高低差があるので歩くごとに複雑に景観が変わり、そのことがこの庭園をより面白くしている。もともとあった自然の崖を庭師がうまく利用しました。

こちらは滝。高さ、幅ともになかなかの迫力があります。これも地形の高低差があればこそ。

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東京には六義園や小石川後楽園など、大規模かつ美しい庭園はほかにもありますが、どちらも平面的・2D的に広がるお庭です。その意味で椿山荘の高低差による大胆なシーンの変換はすごい。

 

若冲ゆかりの石像がかわいい

江戸期の絵師・伊藤若冲がその下絵を描いたという五百羅漢像。

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若冲といえばこの鶏の画で有名ですよね。

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最近の展覧会では若冲の人気がすごすぎて、ギャラリーが殺到する事態になっています。

さて、その若冲が下絵を描いた像。もともと京都の石峰寺(せきほうじ)にあったものが大正期にこちらに移されたとか。その石峰寺には若冲ゆかりの羅漢像が400以上あり、若冲の墓もあります。

あの色彩鮮やかな鶏を描いた絵師がこんなかわいい表情の石像もデザインするんだなあ。画芸の幅が広い。

 

椿山荘ゆえ椿は充実している

椿山荘のあたりは南北朝時代(今から700年ほど前)から椿が自生する景勝の地で「つばきやま」と呼ばれていたとか。

これは個人的な趣味ですが、東京を歩いていて江戸より前のよすがを感じるのが好き。東京は江戸400年よりもっと長い歴史があるんだ…と思うと嬉しくなります。

椿にちなむ逸話はもう一つあります。山縣有朋の故郷、山口・萩も椿の名所で、山縣は萩を思い出してここを「椿山荘」と名付けたらしいです。

ことほどさようにここは椿にゆかりのある土地。植栽もやはり椿が充実しています。こんなふうに品種名も丁寧に示されていたりします。

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あと椿山荘開園60周年(戦後、復興した庭園を起点として)を記念し、椿を自治体の木にしている市町村から、その地の椿を寄贈してもらい植えているそうです。

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寄贈した自治体名は以下の通り。

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椿を自治体の木に制定している自治体ってこんなにいるんですね。ちなみに秋田県男鹿市は椿の北限だそうです。

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庭園の景観を引き締める三重塔

建築様式的に室町期造営と推定される三重塔。

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もともと広島県にあったもので、平清盛が修復との言い伝えもあります(事実とすると900年くらい前!)。縁あって大正時代、この椿山荘の地に移築されました。庭園の高台にこの三重塔があることで、景観にいい具合のアクセントをもたらしている。

また三重塔の前には芝生のスペースが。

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これを見てると芝生つながりで、山縣有朋が作庭を指示した京都・無鄰菴(むりんあん)の庭が思い起こされます。こちらも芝生が広がる庭園です。

※この写真が無鄰菴

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日本庭園って苔の庭はよく見るけど、芝生ってあまり見ない気がする。やはり山縣の趣味が生かされたのでしょうか。

 

夜からだって訪問できる!

庭園を辞そうとしていたらライトアップが始まりました。赤い橋の下では明かりに照らされたスモークが炊かれていました。

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この近くで飲んだら(あまりないかもしれないけど)酔い覚ましに散策してみるのも一興かも。

 

最後に

これだけ青もみじが葉を伸ばしているということは秋の紅葉もきれいでしょうね。また、冬の椿も。また季節を感じに訪れたいです。

一つ大事なことが。

自分たちが散策したのは9月8日でしたが、蚊がわんさかいて、スカートだった妻は足にたかられて往生してました。夏の前後に行くなら蚊にはどうぞご注意を。