歴史探偵

趣味の歴史、地理ネタを書きまくろうと思っていたら、仕事柄どうしてもTVの記事が多くなる今日この頃…

ドラマ「隣の家族は青く見える」・#3までの感想

今、旬真っ盛りの俳優がいるわけでもない。脚本家の名前で話題になるような作品でもない。でもこのドラマは矛盾を抱えて生きなきゃいけない人間の姿をきちんと活写してる佳作だと思う。

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 正直言って#1はそれほどの水準とは思わなかった。

 

妊活する夫婦子どもは欲しくないと言っている婚約中のカップル子どもがいる夫婦ゲイのカップルなど多様な生き方を、コーポラティブハウスという現代的な住まいを舞台に、肯定的に描くという主題はよく伝わってきた。

しかしその子どもがいる小宮山夫妻の妻は、露骨に旧世代的価値観(=夫婦は子どもを作って当然)を押し付けてきて、ドラマに対立を生むためだけの書き割り的な人物造形に思えた。また笑いを取ろうとするシーンでの演出がキマッてないというか、やたらスベるので感情移入出来なくて、「ああ、これはドラマの世界の話なんだな」という具合にリアリティを持てず、妙に覚めて見ていた。

 

しかし#2で主人公夫婦(松山ケンイチ&深田恭子)の妊活が本格始動したり、 松山ケンイチの妹が突如妊娠したり、子どもは欲しくないと言っていた婚約者カップルの男性の息子が登場したりして物語が動き始めると、俄然ドラマが輝いて見えてきた。妙にチグハグだった演出の印象もこの回では払拭されていた。

 

そして#3。心にぐっときた場面が二つあった。

 

一つ目は、奈々(深田恭子)が、ちひろ(高橋メアリージュン)を自宅に招き入れて、お互いに秘めた事情を打ち明け合う場面。ちひろは奈々に、婚約者のパートナー・亮司(平山浩行)と別れることになったことを告げる。

ちひろ:(婚約者の元妻が亡くなって)息子さん、引き取らなきゃいけなくなっちゃったから

確かに自分は子どもはほしくないけれど、本当は亮司に自分との結婚を説得してほしかった、あまりにもあっさり自分との結婚を諦めたのがショックだった、と訴える。失いたくなかったら必死に自分を説得するはずだ、と。

ちひろ:そこまで愛されてなかったってことだよね

亮司の息子と自分を比べると、亮司にとっては息子の方が大事な存在に決まっている…。別れが突然すぎたのか、自分の視点からしか今の事態を見れなくなっている。亮司の心の奥を想像する余力などないのだ。

 

そこで奈々がちひろを諭す。本当は、パートナーの心を逆に解釈する方が正確なんじゃないか、と。

奈々:(パートナーはあなたのことを)愛してるからじゃないかな。

このセリフには泣けた…。亮司はちひろのことを愛し、誰よりも理解しているがゆえに別れを選択したんじゃないのか、と奈々は言う。愛するがゆえの別れ…人生最大の矛盾ですね。

 

ちひろは奈々の言葉に虚をつかれたような表情を見せる。自分が思ってもみなかった亮司の気持ちに気づかされた嬉しさと安心と、それでも事態の困難さは変わらない、という困惑と。幾つもの感情がないまぜになった心を表現する女優の表情は貴い

 

もう一つの場面は、自宅のソファで奈々が夫・大器(松山ケンイチ)に、義妹の”胎動”を喜んであげられなかった、と打ち明ける場面だ。

奈々:あの時ね、あたし、喜んであげられなかったんだよね。

みんなが喜んで、幸せそうにしてるのに、あたしだけ喜べなくて…

セリフを話しながら、奈々の声が少しずつ涙まじりになっていく。こちらの胸も苦しくなる。

 

ドラマの中ではこのシーンの前に、大器の実家で、義妹・琴音のお腹の胎動に、家族が喜び、はしゃぐ場面が挿入されている。その時カメラはアップで、硬く引きつった笑みを浮かべる奈々をずっと捉えていた。このシーンへの伏線だ。

 

再び自宅の場面について。苦しい気持ちを吐露する奈々を慰めるために、夫・大器が掛けるセリフがいいのだ。義妹は予定もなかったのに突然、子を授かった。こちらは不妊治療に苦労しているのに全然できない。

大器:それで(義妹の妊娠を)喜んでたら、お人好しを通り越して バカだよ バカ

義妹の妊娠を喜べず、自己嫌悪している妻を「それでいいんだ」と力強く肯定するために、あえてバカというキツい表現まで持ち出す優しさ。こんなダンナだったら、奈々じゃなくても惚れてまうやろ〜(©︎Wエンジン)状態である。

 

このドラマはどの回も視聴後感がとてもさわやか。それはきっと皆が皆に優しいから。誰もが誰も否定しない、受け入れる、ということで一貫しているからだと思う。唯一の例外は小宮山家の妻だけだ。でもまあ、こういう人物も入れないとドラマにはならないかも。

 

話題性をことさら集めるわけでもない、どちらかというと小粒な作品かも。でも世の中の多くの人がこのドラマの良さに気づいてくれたらいいと思う。