歴史探偵

趣味の歴史、地理ネタを中心にカルチャー全般、グルメについて書いています。

明治人の心意気!〜世界遺産・富岡製糸場 訪問記〜

明治・開国期。西洋に追いつこうとしていた日本人の心意気。

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富岡製糸場 初訪問!

遅めの冬休みをいただいていた年明け。休み最終日の月曜日、群馬県の富岡製糸場に行ってきました。

関西生まれの自分にとっては、北関東というのは、(東京と違って)心理的な距離が遠く、あまり馴染みがありません。

群馬にある富岡製糸場も世界遺産選定の時のニュースで見て気になっていたんですが、ずっと行けずじまいでした。今回、チャンスだと思って訪問することにしました。

 

一番近くて安い駐車場はここ?

東京からレンタカーを駆って現地に着いたのは、ちょうどお昼ごろ。

カーナビに言われるがままに走っていたら、富岡製糸場の正門前まで来てしまっていました。

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「やばっ、駐車場ちゃんと調べてないな…」なんて思いつつ、正門前の警備の方の誘導のまま、門前を右折すると、駐車場に到達。

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「富岡製糸場に一番近くて安い!」との堂々たる宣言。確かに500円で時間制限なし、というのはお値打ちかも。

でもキャパは少なそうなので、ハイシーズンには置けないかもしれません。この日は平日だったので、余裕で駐車することができました。

 

ざっくり知ろう 富岡製糸場!

さて、いよいよ場内を見学します。

※HPより転載

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まずは正面の大きな建物=東置繭所(ひがしおきまゆじょ)にある「ガイダンス展示」を訪ねました(絵で言うと、展示室・売店のあるところ)。その名の通り、繭を保存する場所として使われていたものです。

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まずは解説動画を見ちゃおう!

この「ガイダンス展示」のスペースには、一番奥におよそ20分の解説動画が流れています。外国人を使った再現映像で、内容もとても充実していました。まずはこれを見て、富岡製糸場の全体像をアタマに入れてしまうのが、手っ取り早いと思います。

極私的ポイント解説

それではここの動画・展示を見て、印象に残ったポイントをまとめておきます。

富岡製糸場ってなに?

1872(明治5)年、明治政府によって建てられた、生糸を生産するための模範工場(去年の大河ドラマ・西郷どんに出てきた西南戦争より古い!)。模範工場の名の通り、率先して西洋の製糸技術を取り入れ、その成果を日本全国に普及させることが目的だった。

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模範工場としての役割を終えたのちは民間に払い下げられ、稼働を続けていたが、生糸の価格の低迷などから、昭和62年、操業停止。

幕末〜明治ごろの生糸はとても重要な輸出品だった

1859(安政6)年、修好通商条約によって横浜が開港された。当時のヨーロッパでは微粒子病(カイコがかかる病気)が蔓延していた結果、日本からの輸出品が生糸に特化していった。しかし日本は座繰(ざぐり)製糸であったため、良質な生糸が大量生産できず、粗製乱造の問題などがあった。

諸外国からは強い不満があり、政府は官営工場への設立に向けて動いた。

どうして”富岡”に建てられたの?

工場建設のために雇われたフランス人ポール・ブリュナ(幕末、フランスの貿易会社の生糸検査人として来日した)と政府の役人は、工場を建設するなら、東京からあまり遠くない養蚕地帯が望ましいと、当時、養蚕が盛んだった長野県、群馬県、埼玉県を実地調査。その結果、この地が選ばれた。

富岡に決まった具体的理由は…(展示資料から抜粋)

  1. 富岡周辺は昔から養蚕が盛んで、生糸の原料である繭が確保できる。
  2. 工場建設に必要な広い土地が比較的容易に確保できる。
  3. 製糸に必要な良質な水が既存の用水で確保できる。
  4. 燃料の石炭が近くの高崎・吉井から採れる。
  5. 外国人指導の工場建設に対し、地元住民の同意が得られた。
設立に関わった著名人は?

製糸場設立の緊急性を感じた伊藤博文、大隈重信が協議し、設立することが決まる。実際の担当は、日本資本主義の父・渋沢栄一や、渋沢の従兄弟で、渋沢に学問を授けた尾高惇忠(ちゅうこん)など。

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建築は和洋折衷

木骨レンガ(木造の骨組みにレンガの壁を組み合わせる。レンガのみの構造より丈夫)やトラス構造(三角形を組み合わせた骨組み。柱のない大きな空間を作り出せる)に、日本の左官技術である「漆喰」を目地に使ったレンガ造り、瓦屋根などを組み合わせた和洋折衷の建築技術が使われている。

開国期ならではの建築を見て回れるのは楽しいです。

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国宝・操糸所(そうしじょ)も必見!

操糸所は繭から生糸を取る作業が行われていたところ。

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世界最大規模の製糸工場だったそうです(現在、保存されている機械は昭和まで使われていた最も後発の新しいものです)

屋根の幾何学的なトラス構造(柱をなくして、内部空間を広く取れる)も美しい。

当時の女工さんはこんな風に糸を繰っていました。

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電気がない時代だったため、外光をたくさん取り入れるためガラス窓が広く設計されています。

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世界遺産の後に国宝になった!

この操糸所も、先ほど紹介した東置繭所も国宝。世界遺産選定の半年後、国宝指定されています。文化財的な価値は、先に世界に認められたということでしょうか。しかも群馬県初の国宝だそうです。群馬って国宝少ないんですね…(スイマセン)。

 

国宝・西置繭所(にしおきまゆじょ)は修理の過程が見られる!

もう一つの国宝である西置繭所(にしおきまゆじょ)は現在修理中でした。

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※写真撮影はNGでした。

屋根の瓦を職人さんが修理しているところを見ることができます。今でないと見られない貴重な体験だったかもしれません。

レンガの壁に瓦屋根というのも、当時ならではの和洋折衷スタイルです。

 

動力は蒸気で!貯水槽は鉄で!

電気のない時代。機械を動かす動力は蒸気でした。鉄道のSLと原理は同じですね。

これがその動力を生み出していた「ビュルナエンジン」と言われるもの。

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富岡の商工会議所の方々が復元したものだそうです。その復元するための努力も相当なものだった気がする。

こちらは「鉄水溜(てっすいりゅう)」と呼ばれる貯水槽。

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製糸工場では大量の水が必要でした。最初はレンガで作られていましたが、水漏れがひどく、鉄に変えられたとか。鉄を接合するのに、造船の技術(真っ赤に熱したリベットを鉄板の穴に差し込む。冷えてたら半永久的に固定される)が用いられています。

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解説スタッフの方によれば、まだ溶接の技術が確立していなかったのでは、とのことでした。

 

富岡製糸場にモノ申す!

富岡製糸場を訪れた時、平日というのもあるでしょうが、お客さんはかなり少なかった。最近、観光客が落ち込んでいる、との報道もあります。

富岡製糸場、観光ブームに陰り「面白み少ない」 市は公開と保存の“ジレンマ” (1/2ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ)

確かに、京都の世界遺産にようにメディアにしょっちゅう取り上げられるわけでもないし、歴史上の有名人のエピソードが豊富なわけでもない。地味といえば地味な施設です。

でも当時の、西洋に追いつこうと思って必死だった明治人の心意気を思うと、興味を掻き立てられる場所でもあります。富岡製糸場に来ないと、味わえない歴史的感興があるのも確か。

でももう少し工夫できるところもあるのでは、と思いました。

一つは施設が寒い。最初紹介したガイダンス展示は屋内なのにストーブ一つありません。あれではじっくり説明を読んだり聞いたりする意欲も削がれるというもの、事実、私の妻はリタイアしてました。

もう一つは魅力的なお土産がない。製糸場だけに”シルク推し”がすごいんですが、シルクってそれなりにお値段張るし、そんなに入用な時がないんですよね。もっと普通の観光地にあるようなマグネット(例えば)みたいなものが欲しかった。もしくは生糸やカイコがわかるような本とか。

観光客を引き寄せるためにできることは、まだまだある気がしました(関係者の皆さんの苦労も知らず、勝手なこと言ってスイマセン…)。

 

最後に

…とは言え、生糸の歴史的意義に触れられる場所というのは、日本ではここがベストでしょう(おそらく)。生糸は日本の近代化のための外貨を稼いでくれた最大の功労者です。生糸について学び、明治の歴史を感じてみたい人はぜひ、行ってみてください。

 

おまけ〜富岡製糸場からすぐ!「和風絹しゅうまい」〜

見学の後、小腹を満たすために立ち寄った「信州屋」というしゅうまい屋さんで、「和風絹しゅうまい」(300円)をいただきました。

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これ、美味しいです!

豚肉の赤身と玉ねぎ、根生姜だけを使って練り上げ、薄皮で包んだもの。おやつ代わりにぜひ。

 

 

※山梨県の塩山駅の目の前に、生糸について学べる江戸期の古民家がありました。

www.rekishitantei.com