歴史探偵

趣味の歴史、地理ネタを中心にカルチャー全般、グルメについて書いています。

映画「ボヘミアン・ラプソディ」感想

クイーンの音楽×エンタメ的工夫=最強!

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ひと言でいうと感動しました…

クイーンの音楽の力が半端なくすごい映画でした。

(以下、ややネタバレあり)

クイーンのメロディーに、フレディの痛切な物語を見たことによる”感情喚起力”が加わり、ラストの21分のLIVEシーンは音が胸に刺さりまくります。涙も頬を伝うほど。

本当に感動しました。

自分はクイーンを同時代的に聴いていた世代ではないけれど、大学のころ、時代を遡るかたちでアルバムをかなり聴いていたので、楽曲を存分に愉しむことが出来ました。

でも彼らの曲はスポーツの試合前に流されることが多い「We will rock you」など、クイーンと意識せずに聴く機会が多い。なので、クイーンのアルバムをちゃんと聴いたことがない、という人も楽しめる映画だと思います。

あと何と言っても彼らの音楽はメロディーがポップでキャッチーでキラキラしているので、初見(初聴)でも「これはいい音楽だ!」ということが分かります。

もちろん音楽以外のところはフレディの人生のひとコマが簡潔に導入されていて、ふつうのドラマとしても十分、感動を味わうことができます。

以下、3点、この映画を傑作にした"絶妙ポイント"をまとめてみました。

 

エピソードと曲のバランスが"絶妙"(これはオペラか?)

物語はクイーンのヴォーカリストで、美しい曲を一番たくさん生み出している(と自分は思う)コンポーザーでもある、フレディ・マーキュリーのエピソードを中心に展開します。

少しエピソードが描かれ、そのあと、曲が抜粋で流れるというのがワンブロックの構成。この配分が見事で、「ストーリーを追うのに疲れるなあ」と感じる前に、カッコいいメロディーが流れ始めるので、飽きることがないのです。

またそのエピソードも分かりやすいところが選ばれてるし、一つ一つのエピソードも短いので、クイーンやフレディをほとんど知らない人が行っても楽しめます。

今、書いていて気づいたんですが、これって作品の構造がオペラなのかも…

オペラも筋(エピソード)と歌(アリア)があって交互に進みますもんね。オペラ的ロックの最高峰=ボヘミアン・ラプソディと銘打つ映画の構造にはピッタリだったのかもしれません。

 

エピソードの省略が"絶妙"

この映画、一つのエピソードが提示されたあと、そのエピソードがどうなったか、こと細かに説明はしません。次のエピソードシーンを観て、「ああ、そういうことになったのね」と観客側が想像し了解する、といった流れで構成されている。

例えばフレディはメアリーという女性に思いを寄せ、結婚を申し込み、女性も結婚指輪を一旦は受け取り、指にためらいがちにはめます(このためらいがち、というのにもフレディの性的志向=ゲイに対する不安が描写されている)。

その後、2人の結婚生活がどうなったのか、についてはほとんど描かれず、ある時、メアリーがやって来て、自分が別の男性の子を妊娠していることを告げる。

細かい成り行きはスコーンとすっ飛ばしているわけですが、だからこそ、展開に良いテンポが生まれ、気持ちよく映画のストーリーに身を任すことが出来ます。かといって、わけわかんないほど省略しているわけではない。絶妙の"すっ飛ばし"です。

フレディのどのエピソードを、どのくらいの詳細さ(深さ)で描くのか。脚本家や監督はその辺り、すごく練ったのでは、と想像出来ます。そこにエンターテイメント映画のプロの技を感じました。

 

ラスト21分をライヴパフォーマンスにした"絶妙"

途中、フレディと他のメンバーは仲違い。その亀裂が修復されて、クイーンはライヴ・エイド(アフリカ難民の救済するために、超大物アーティストが集い、ライヴパフォーマンスを披露しつつ、寄付を呼びかけた)に出演することが決定。どんなパフォーマンスを見せるのか、という展開が最後のクライマックスを構成します。

このクライマックスに向けて、全てのエピソードを回収しつつ、ライブシーンでフレディは超圧倒的なパフォーマンスを見せつける。

観客は1時間半くらいかけて、フレディの気持ちを追い続けているので、曲の歌詞にいちいち感情移入してしまいます。

例えば、We are the chanpionsを聴いていると、フレディが人種コンプレックス、ゲイ・コンプレックス等々を克服し、ロックスターに登りつめた自分を歌っているように聴こえてくる。一方で観ている我々一人一人の人生を励ましてくれているようにも思える。ただでさえロック史上に残るド名曲なのに、映画館で観ていると胸に迫りすぎて涙が出てくるほど。

この"音楽感動"が21分間、息をもつかせず続くわけです。これで傑作と言われないはずがない。

しかも、きっとCGやらドローンやら最新の撮影技術を使っているのでしょう、そのライヴの現場にいるような興奮をそのまま伝えてくれるような映像的工夫も素晴らしかった。

こんな超名シーンで観客の心を射抜き、射抜かれた観客は口コミで周りの人にこの映画の魅力を語って回る。作品論的に見事なうえに、プロモーション戦略としても極上のものだな、と思います。

 

最後に

いろいろと理屈っぽく書いてしまいましたが、とにかく極上の映画的体験(=映画でしか体験できない価値のもの)をもたらしてくれる作品であることは間違いありません。

もし、観ようかどうしようか迷ってるひとがいたら、絶対に行ってほしいと思います。

自分は、大声で歌える上映スタイルである「応援上映」を観に行こうか、どうしようか思案中…。