歴史探偵

趣味の歴史、地理ネタを中心にカルチャー全般、グルメについて書いています。

"蔵のまち" 秋田県横手市増田地区・訪問記

"蔵"に凝縮された雪国の美意識。

 

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こんな蔵があったのか!

日本古来の"蔵"。皆さん、どんなイメージを持ってるでしょうか。

「蔵…?モノを保管しておくあの白塗りの、ガッシリとした建物でしょ」くらいの感じでしょうか。

そういったふつうの蔵のイメージを一変させるほど、蔵に財をつぎ込み、鑑賞の対象となるほどにまで磨き上げた町があります。

それが秋田県横手市の増田地区。

横手市に所用があり東京から訪ねたのですが、ついでに市街地から少し離れた増田地区に寄ってその町自慢の蔵をじっくりと見てきました。

 

ざっくり分かる"蔵のまち"

まずはこちらのマップを。

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真ん中に「増田蔵町通り(中七日町)」というメインストリートがあり、その両脇に蔵のある住まいが並んでいるかたちになっています。

でも蔵がある、といっても外からは見えないんです。増田の蔵は「内蔵(うちぐら)」と呼ばれ、蔵全体をさらに「鞘(さや)」と呼ばれる大きな建物で覆ってるのが特徴です。

建物の構造についてはまた後述します。

 

豪壮豪華な蔵

この増田地区に着き最初に訪ねたのは「佐藤養助漆塗資料館」です。

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この外観だけを見てると蔵があるような建物には見えません。

しかし中に入ってみると…

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ちゃんと蔵があるんです。

蔵が建物の中にビルトインされている格好ですね。こんな構造の建物、日本でこの地区以外にあるんだろうか。

この蔵は現在、代々「佐藤養助」を名乗る「稲庭饂飩」を世に出した事業家の持ち物。蔵の中には代々の当主の肖像画が飾ってありました。

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地方で財を成した資産家の雰囲気が濃厚に漂っています。

 

2階はこんな感じ。

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解説もあって、それがこちら。

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樹齢数百年の、用途別に選定された木、35年という木の乾燥にかける年月、そして卓越した大工職人・漆職人の技術、など様々な優れた要素を掛け合わされて内蔵は造られていました。こうなるともはや巨大な工芸品の域ですね。

 

かつての薬屋さんの看板 これはアートか宣伝か

続いて訪問したのは「旧村田薬局」。

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ここは江戸時代に創業したという、最盛期には秋田県南で最も売り上げがあったという薬屋さんです。

入り口にはこのような案内が。

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「どこよりも見どころ一番‼︎」。これは期待感が高まります。

 

お店に入らと優しそうなるとご主人が応対してくれました。

こちらが現在の店内の様子。

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なんでも平成に入って薬屋の営業自体は廃業され、今は薬屋さんで使われていた様々な道具や蔵などを、増田を訪れる観光客相手に解説されているそうです。 

品々の中でいちばんシビれたのがこれ。

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津村順天堂(あの有名な入浴剤・バスクリンで知られるツムラです)が売上を著しく上げている店舗に贈ったという看板。中将湯という入浴剤を宣伝するためのものです。

この看板、なんとホンモノの油彩画なんだそうです。昔は印刷技術が発達していないから一点一点画家が油絵を描いてお店に渡していたんだとか。う〜ん、薬屋さんの看板なのにアートですねえ。かつての映画の看板みたいなものでしょうか。

 

蔵 3連発の敷地

ご覧の通り、家の中に蔵の入り口があります。

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2階に上がると、やはりここの天井も凝った仕様でした。

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太い梁(はり)はケヤキ。そして天井板はスギとケヤキが交互に使われています。スギが縦に筋(柾目(まさめ))が入ったもの、木目が浮き出ているのがケヤキです。美観をかんがみて、のことらしいです。木の種類を変えることでデザイン性を高める方法ってあるんですね。

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またこの空間は薬の保管スペースでもありました。

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薬屋さんらしく、少量ずつ薬品を保管しておく箪笥(のようなもの)置いてあります。百味箪笥(ひゃくみだんす)というのだそう。ちなみにこの商売に関係している蔵は「店蔵(みせぐら)」と言うそうです。

 

こちらの怪し〜い地下への階段は…

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なんと地下室。

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ここもやはり薬の貯蔵庫。周りは秋田県の「院内」というところで取れた切石を使っているそうです。地元のものを大切にしています。

 

ここは2つ目の蔵。

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先日までご主人のお母様の寝室として使っておられたそうです。

なんとさらにもう一つの蔵が。

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ここは「みそ蔵」。かつてはこの家だけで家族・使用人を含めると15人ほどが生活していました。その人数分のみそをまかなっていたのがこの部屋です。大勢の人が活気に満ちて働いていた頃がしのばれる部屋です。

これら3つの蔵が一つの建物に収まっているんですから面白い。

ではどうして一つの建物に収めてしまうのか。

ご主人の村田さんのお話によれば、この増田が豪雪地帯だからだそうです。一つの建物に収めてしまえば、用事があって別の棟に行く際、外に出る必要がない。つまり頭に雪が降りかかる心配がないわけです。なるほど!考えられてる!、って感じでした。

逆に言うと、蔵も含め、建物は一方向に連なって造られてるので、家の敷地が細長くなります。こんなふうに通路も奥へ、奥へ、さらに外へと延びています。

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敷地の長さ100m以上。家の中で徒競走ができそうだ。

 

蔵の天井は高い!!

蔵を回って少々疲れたので、お休み処っぽい雰囲気に惹かれ、お茶をしにこちらの建物を訪問。「まちの駅 福蔵」です。

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軒先にはこんなものが干してありました。

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この辺りで冬に作る「干し餅」というものらしいです。干し柿の餅版?といったところでしょうか。

 

やはりこちらのお宅にも内蔵、ちゃんとありました。

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それにしても天井が高い。蔵そのものを覆ってしまう建物なので、そりゃこんくらい高くなりますわ〜って感じですね。

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中では江戸時代の陶磁器が飾ってありました。ギャラリーとして使っているそうです。かつての蔵が今は人々の交流の場として使われています。

 

アイスコーヒーでホッと一息。

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見上げると立派な神棚が。2つ並んでいるのが珍しい。

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向かって右側が天照大神で女性の神様。左は月山(がっさん)の神様だそうです。

月山といえば東北を代表する聖地・出羽三山の一つ。月山とか聞くと「東北来たなあ〜」と嬉しくなります。

 

最後に

ふつうに通りを歩いていても分からないけど、一歩建物に足を踏み入れるとそこは間違いなく”蔵のまち”。こんな町見たことない。ほんと面白いです。建物を見るのが好きな人はもちろん、東北の歴史や暮らしに想いを馳せたい人は絶対楽しめると思います。

 

補足 公共交通で行くにはちとツラい…

増田を訪ねるのに一つ、難があって、最寄駅(JR奥羽本線十文字駅)からのバスの本数がかなり少ないです。特に土・日・祝は減ります。例えば増田から出発するバスの本数はこの程度しかないです。

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なので、そうすることが可能な人はマイカーorレンタカーがいいでしょうね。

自分は先ほどご紹介したお休み処の奥さまが良い方で十文字駅まで送っていただきました。歩いたら35分ほどかかったみたいなので、ほんと助かりました。人情にまで触れられて満足な旅でした。 

 

 ※同じく増田地区にある魅力的な酒蔵です。

www.rekishitantei.com