歴史探偵

趣味の歴史、地理ネタを中心にカルチャー全般、グルメについて書いています。

なぜ日本はベルギーに敗北(善戦)した?

ベルギーとの”地力の差”とは何なのか。

まさか残り1分での逆転劇が待っているとは…。残念…。かえすがえすも残念なベルギー戦の敗戦でした。

それにしても日本代表は文句のつけようのない立派すぎる戦いを見せてくれた。ボールに、相手選手に必死に走って食らいつく姿を見てほんと勇気をもらいました。W杯のたびにわかサッカーファンになって代表の試合を見ていますが、日本のサッカー面白くなっていると思います。パスをつなぎつつも、ここ!というチャンスでは速攻。日本サッカーの将来が見えたようなゲームでした。

ただ、とはいえFIFAランク3位の強豪に地力の差を見せつけられたのも事実。ベルギーとの差は噛み砕いてみると何なのか。またベルギーに肉薄できたのはなぜなのか。選手・監督・識者の記事をまとめました。

 

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ベルギーとは地力の差があった

西野朗(日本代表監督)

ディフェンスの部分も1対1、2対2の中で対応するのでなくて、今日もベルギーの両サイドをどう消して、なおかつ攻撃で出ていくか、というところが大きなポイントでした。両サイドで長友(佑都)と酒井(宏樹)が1対1で対応するのでなく、グループで対応することを増やした。ディフェンス力で個の力を消していくことができましたが、最後はそれこそ数センチ、0コンマ何秒の違いでやられてしまう。繰り返してはいることなのですが、やはりさらにグループで、人にいくのか、ボールにディフェンスをするのか。そういうところで対抗する必要があると思います。

西野監督「まだ力が足りない、ということ」(スポーツナビ) - ロシアワールドカップ特集 - スポーツナビ

非常に読み応えのある試合後の西野監督のインタビュー。悔しい思いもあったとあったはずですが、とても冷静にゲームを振りかえっています。

 

セルジオ越後(サッカー解説者)

冷静に分析すれば、相手のほうがチャンスを圧倒的に作っていたし、2点目、3点目なんて完璧に崩されていた。あれだけ必死に守っていても3失点してしまったんだ。ギアを入れられると完全に後手を踏んでしまっていたよね。
露呈したのは、経験不足だった。カウンターからうまく2点を先行したのは良かったよ。ただ、2-0になってからの試合運びは非常にもったいなかった。西野監督が試合後に「もう1点取れた」と言っていたように、“いけるかも”と思って欲が出てしまったようだ。あそこでは、2点を守り切る試合運びをすべきだったよ。流れに沿った選択ができるかできないか。そこに世界とのレベルの違いがあるね。

逆にベルギーの対応は素早かったね。2点のビハインドになると、フェライニという高さのあるカードを切って押し込もうとしてきた。それなら日本は、植田など長身のCBをもうひとり入れて、そのポイントを消すべきだったんだ。つまり、柔軟性という点で完全に劣っていたわけだ。

【セルジオ越後】「惜敗」はなんの慰めにもならない。そこに差があることを認識しないと | サッカーダイジェストWeb

相変わらずの辛口セルジオ節…。セルジオさんに褒められるにはどんな戦いをすればいいんでしょう…。

 

フットボールチャンネル

ベルギーに見せつけられたのは「ベンチ」の差だった。最初の交代カードを切ったのはベルギーで、2失点した後の65分にドリース・メルテンスとヤニック・カラスコを下げてマルアン・フェライニとナセル・シャドリを投入してきた。

(中略)

彼らの登場から4分後の69分、早くもその効果があらわれた。コーナーキックからヤン・フェルトンゲンがロングヘディングシュートで反撃ののろしとなる1点を奪った。そして長身の選手たちがペナルティエリアに押し寄せてきた中、最初にヘディングでカオスを作り出したのは投入されたばかりのシャドリだった。
さらに74分、再び高さにものを言わせてベルギーが同点ゴールをもぎ取った。左サイドで粘ったエデン・アザールのクロスに、頭で合わせたのは途中投入のフェライニだった。日本が最も警戒しなければならなかった選手にやられてしまったのである。

日本代表、ベルギーに見せつけられた「ベンチ」の質。8強入りに足りなかった23人の総合力【ロシアW杯】(フットボールチャンネル) - Yahoo!ニュース

控え選手も含めた総合力の差が結果につながった、との記事です。加えて的確な選手を的確なタイミングで使ったベルギーのベンチワークも冴えていた。

 

イビチャ・オシム(元日本代表監督)

追いつかれたのは、足りないものもまだあるということだ。それらは小さな事柄であるのだが、日本がまだ多くを学ばねばならないのもまた確かだ。愚かなミスを犯す可能性は常にある。しかしそうしたミスとも共に生きねばならない。もちろん二度と犯すことのないよう修正していく必要はあるが、最悪だとばかり言って後悔しても仕方がない。

イビチャ・オシム氏「素晴らしい試合だった、日本はもっとできる」世代交代の必要性も : スポーツ報知

「そうしたミスとも共に生きねばならない」。オシムさんのこういう修辞的表現はいつもカッコいい。こんな表現を使いつつも論旨は本質をうがったもの。いつ読んでも面白いです。

 

戸田和幸(サッカー解説者)

あのベルギーが勝利をつかむために、2人同時に選手交代をし、システム変更したことは事実です。ベルギーが行ったプランBへの変更に対し、日本はこれといった策を講じることができずにひっくり返されてしまった。W杯で勝つためには、やはり細部までさまざまなシチュエーションを想定した準備を行わなくてはならないものなのだということを、あらためてベルギー戦で学んだ気がします。

ベルギーの戦術変更に、日本は対応できず(スポーツナビ) - ロシアワールドカップ特集 - スポーツナビ

やはり読み応え十分の戸田さんの解説。けっこうな分量ですが読む価値ありです。プランBとは、ベルギーが後半に行ったフォーメーションの変更のことです。

 

後半 前がかりになりすぎた

矢内由美子(スポーツライター)

わずか数分間の複数失点には遠因があった。日本は4日前のポーランド戦の終盤の約10分間、0-1で負けているにも関わらず、自陣でパスを回して時間を稼ぎ、裏カードのコロンビア対セネガルの結果に命運を委ねた。

(中略)

西野朗監督は選手たちに「素直に喜べない試合に申し訳ない」と謝ったという。指揮官はポーランド戦を引きずっていた。

これがベルギー戦に影響した。2-0とした後にフレッシュな選手を入れてバランスを整えるでもなく、そのままもう1点を取りに行った。反撃に出たベルギーが長身の2選手を入れた後も、セットプレーの守備対策としてDF槙野智章、あるいはDF植田直通を入れて3バックにするという選択をしなかった。

(中略)

振り返れば、終了間際に本田がCKを蹴り込んだのも、ベルギーにカウンター攻撃を食らったときに数的不利になったのも、日本が前掛かりだったからだ。

 「スポーツグラフィック ナンバー」週刊文春7/17臨時増刊号

なるほど…。ポーランド戦で勝負を逃げたことへの西野監督の自責の念が日本の3失点につながってるとは。全ては因果応報。お釈迦さまの言った通りですね。

 

ハリルさんの遺産+西野さん手腕

サッカーキング

(長友)「ハリルさんには感謝しています。ハリルさんのデュエルや走るというベースがチームにあったし、やっぱり本大会では戦って、走って、デュエルに勝たなければいけない。そのベースの上に西野監督の経験やボールをつなぐという戦術がうまくマッチしたと思います」

戦い、走り抜いたロシアW杯…長友佑都「ハリルさんには感謝しています」 | サッカーキング

 

石川聡(ライター)

日本サッカーにとって、収穫の多い名勝負だ。パス回し、ボールさばきはベルギーを上回った。先制点を奪ったカウンター攻撃は、縦への速さもあった。つなぎと速攻を融合させた「日本らしいサッカー」は欧州の強豪にも通用する。これを続けなくてはいけない。

それにしても、2か月前の監督交代から、ここまでチームを仕上げた西野朗監督の手腕には驚かされた。ポーランド戦の時間稼ぎ論争も吹き飛ばした。ハリルホジッチ前監督の縦に速い攻めと対人プレーの激しさも息づいたチームで、日本サッカーの方向性が示された。

試合速報・解説|2018FIFAワールドカップ ロシア:読売新聞

メディアも国民も「ハリルが良かったか、西野が良かったか」と二者択一の問いを立ててしまいがちですが、実際は前任者の実績の上に力は積み重なっていくものなのでしょうね。その辺り、W杯後、メディアには冷静に分析してほしい。

 

香川の豊富な運動量と正確なパス

大木 勇(Football ZONE web編集部)

日本の走行距離最多はMF香川真司の12.04キロ。トップ下に入った香川は献身的なプレッシングで相手を苦しめつつ、ギャップに入り込んで攻撃のリズムを作り出した。両チームで見ても唯一の12キロ台と運動量の多さが際立っている。

(中略)
パス数最多も香川で52本をマーク。攻撃のコネクション役を担い、いかにチームに落ち着きをもたらしていたかが見て取れる。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180703-00118628-soccermzw-socc

 

西部謙司(サッカージャーナリスト)

押し込まれる時間が長くなる中、日本もカウンターから乾のヘディングシュート、長友のカットインからのシュートと決定機に近い形を作った。香川のプレーは出色、抜群のボールコントロールとアジリティ、アイデアを発揮し、ベルギー守備陣は全く香川をコントロールできない状態になっていた。香川にボールが入ればほぼチャンスになるという状況は90分間続いていた。

著者: 西部謙司 | フットボールチャンネル

今回、香川のテクニックの輝きを何度もみました。乾のシュート直前の敵をほんろうする動きなどほんと見事でした。

 

吉田の守備への集中力

フットボールチャンネル

90分を通じて、背番号22は集中力の高い守備を見せている。データサイト『Who Scored』によると、クリアの数は「14」を記録。これは両チーム合わせて断トツの数字で、2番目に多いヴァンサン・コンパニーは5回だった。ベルギーの猛攻に晒されたのは間違いない。だが、吉田がことごとく相手の前に立ちはだかったことを如実に表すものでもある。

吉田麻也、データが示す獅子奮迅の守り。8強進出ならずも…ベルギーに立ちはだかった日本の壁【ロシアW杯】 | フットボールチャンネル

吉田も素晴らしかったですが、昌子も素晴らしかった。こんな凄いDFがJリーグにいるなって…。鹿島アントラーズを見に行きたくなりました。

 

将来につながる戦い

戸塚啓(ライター)

決勝トーナメント1回戦でW杯が終わりを告げたのは同じでも、’02年のトルコ戦よりも、'10年のパラグアイ戦よりも、ベルギー戦の日本は日本らしさを表現した。表現し尽くした。日本サッカーの可能性を示し、世界における現在地を知ることができた。

ロシアW杯の日本は、未来につながる戦いをしたのだ。

戸塚啓 スポーツコラム - Number Web - ナンバー

ほんと今回の戦いはこの文章に尽きると思う。日本人であることが誇らしくなるような戦いでした。今から4年後を楽しみにしたいと思います。