歴史探偵

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本「西野朗 勝利のルーティーン」感想

やはりコミュニケーションは大事。

勝利のルーティーン 常勝軍団を作る、「習慣化」のチームマネジメント

勝利のルーティーン 常勝軍団を作る、「習慣化」のチームマネジメント

 

 

西野監督にがぜん興味がわいてしまった

W杯を目の前にしてのハリルホジッチ監督の電撃解任、そして西野朗監督の就任。自分はW杯のある4年に1度だけサッカー熱が急上昇する、超・超にわかサッカーファンですが、この一件にはなぜかすごく関心を持ってしまいました。
ハリルホジッチ解任に関するサッカー協会会長や西野さんの会見での歯切れが悪く、はっきりと解任理由をハリルさんに伝えなかった、と報道されたことが「日本人的アイマイさ全開…って感じでなんかイヤだな~」と思ってしまった。ここからは個人的な事情ですが、自分もこの日本人的アイマイさにいつも職場で苦しめられているというか、はっきり物事が言明されることなく、いろんなことが決まっていることが多いので「そういうアイマイさって良くないんじゃない?サッカー協会さん!」などと事情もよく知らないのに思ってしまったわけです。一方でこんな”火中の栗”感200%の難しい代表監督を引き受けてしまった西野さんに半分同情めいた気持ちも抱いていました。「西野さん、よく引き受けたな…」と。
で、始まったW杯。なんと日本はコロンビア戦に勝利し、セネガル戦は値千金の引き分け。ポーランド戦は黒星でしたが、薄氷の”ボール回し逃げ恥作戦”で決勝トーナメント進出!…と思ってみなかった大々成果をあげた日本代表。特に日本中、いや世界中から大ブーイングを浴びるかもしれないポーランド戦のボール回しを指示した西野監督は「何という胆力を持った方だ」と、心底感嘆しました。
そこで西野監督に「いったいどういう考えの持ち主なんだ、この人は…」とがぜん興味がわいてしまい、上記のKindle版をポチっとしてしまいました。
 

「勝利のルーティーン」ってどんな本?

西野朗さんの、サッカーや監督業についての考えをご自身の経験に基づいて披露されています。特に”常勝軍団”を作るための日々の小さな工夫について詳しい。柔らかい語り口調なので、集中して読めば2時間ほどで読めるかと。
 

コミニケーション〜西野朗とピーター・ドラッカー

西野監督はこの著書を読む限り、選手の細かい心理やクセ、育ってきた環境まで把握し、選手の起用法を考えているようです。

具体的には…

  • 子どもの頃、ユースの頃はどこのポジションでプレーしていたのか。
  • 選手の苦手なプレーは何か。なぜそれが苦手なのか。分析し対処する。
  • 食事の時は全選手が視野に入る位置のテーブルにつく。食事の時は人間性が出やすいので。
  • 選手の聴いている音楽や読んでいる本にも関心を払う。

などです。全人格的に選手を把握しようとし、人間として選手を尊重・理解しようとしている姿勢を感じます。

西野さん自身の言葉を引いておきます。

選手の本当のナマの声というのは、なかなか監督には直接届かないものだ。だからその隙間を埋めるために、あらゆる角度から選手を観察し、見えにくい選手の本音や考えを知る必要がある。先入観やピッチ上の振る舞いだけで、選手の個性を決めつけてはいけない。

この部分を読むだけでも「西野さんが自分の上司だったら!」と思うサラリーマンは多いんじゃないでしょうか(間違いなく自分もその一人)。

こういうところは西野さん個人の資質もあるでしょうが、西野さんが日本人であるというアドバンテージも感じます。やはり日本人の方が日本人の情の機微はわかると思う。

また「西野さんと選手たち」という関係だけでなく選手同士のコミニケーション、雰囲気づくりにも気を配っておられるようです。

  • 合宿所のトレーナールームの隣にリラックスルームを作り、ゲームや雑誌を楽しんだり、試合のDVDを見られるようにする。
  • 外国人選手のロッカーのポジションはできるだけ中央にし、周りが話しかけやすい環境にする。

チーム内での交流が深まる環境を調える。大事な視点だと思います。ビジネス現場に置いてもチームの生産性を決める要素として、チーム内は「思ったことを何でも言える空気が大切」と言いますし。

グーグルが突きとめた!社員の「生産性」を高める唯一の方法はこうだ(小林 雅一) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)

 

その他にも自分の居場所を隔離された監督室ではなく、コーチと同じ大部屋にする、とかフロントともスムーズな意思疎通を図るなど、常にコミニケーションを重視の姿勢が貫かれています。

あの経営学の泰斗ピーター・ドラッカー

組織においてコミュニケーションは手段ではない。それは組織のあり方そのものである 

という有名な言葉を残しました。やはり組織で物事を成す以上、円滑なコミニケーションは全ての前提なようです。

 

選手の自主性を重んじる西野流

報道によればハリルホジッチ前監督は、自分の意思を選手にストレートに伝え、自分のイメージ通り選手を動かそうとしていたと言います(すいません、本当の事情は分かりませんが…)。

一方、西野さんは選手に指示を出す時もなるべく命令口調は避けるらしいです。監督が命令口調だとサッカーに必要な「判断力」が身につかないからだとか。この辺りも監督が西野さんに代わり、チーム内の雰囲気がよくなった一因かも。やはり日本代表は一線級のプロの集まり。自分たちの自主性を重んじてもらえるとモチベーションも上がるというもの。

 

ポーランド戦は「マイアミの奇跡」とも似ている

西野さんは2002年〜2011 年という長期に渡ってガンバ大阪の監督を務め、ガンバを超攻撃的なチームに育て上げました。西野さんは「守備的にゲームを進めてカウンター」より「ポゼッションしパスを繋いで繋いで攻撃。たとえ後半で勝っていても攻撃の手を緩めない」というのが好みだとか。だとすればポーランド戦のボール回しも自分の信条に反する苦渋の決断だったんだな、というのがよく分かります。

実は1996年「マイアミの奇跡」と言われたアトランタ五輪でのブラジル戦も西野さんは超守備的な戦術を取っています。予選リーグを突破するために、圧倒的な実力差のあるブラジル相手に本意ではないが、現実的な選択をした。するとマスコミ等から「将来性がなく、A代表につながらない」「あのメンバーならもっと攻撃的に戦うなど、もっと違うやり方があったはずだ」と叩かれたらしいです。なんともポーランド線に状況が似ている…。歴史は繰り返すと言いますが、アトランタ五輪でもロシアW杯でも自分の攻撃的サッカーという信条を曲げつつも、”実”をとりにいって成功を収めた西野さんは稀代の策士ですね。

 

最後に

ここに挙げたポイント以外にもサッカーの”現場人”でしか語りえない深い洞察や苦い経験(ヴィッセル神戸時代の突然の解任等)がたくさん語られています。西野さんのことをもっと知りたい!と思う方はこの機会にぜひ。

 

 

※ベルギー戦の記事のまとめ。この日の選手交代は西野さんにとっても難しかったと思います。

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