歴史探偵

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新日本風土記「鬼」・感想(京都市内編)

”鬼”について真面目に考えてみる。 

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京都人が四方(よも)参りで回る寺社

 

類を見ない番組「新日本風土記」

BSプレミアムで放送している「新日本風土記」。毎回見るほどの熱心のファンではないですが、6月15日(金)放送の「鬼」の回にたまたま親しい人が出演していたので久しぶりにきちんと見てみました。いや〜実にいい番組です。単なる歴史番組でも、紀行番組でもなく、言うなればこの「鬼」の回など”民俗番組”とでも言いたい内容。”鬼”という存在が一体日本人に取ってどういう意味を持っていたかというテーマを日本各地でじっくりと取材し、カチっとした構成でまとめてあります。そもそも”鬼”で日本で斬る、という視点もユニーク。地味と言えば地味ですが、日本の伝統・文化・歴史に関心ある人なら満足いく内容だと思う。書籍化はしないのだろうか。本にしても十分耐えうるだけの情報量が詰められていると思うんだけど…。

さて、その「鬼」の回。印象に残った箇所と感想をまとめておきます。

ちなみに公式HPによる内容のあらましはこちら。

「鬼は外、福は内」。節分になるといつも追い出される鬼。その一方、神の化身として子どもたちを祝福し、集落の厄払いに大活躍する鬼もいる。鬼を最も恐れた京都には、鬼門よけの仕掛けが御所をはじめあちこちに。「鬼」とは、災いを招く恐ろしい怪物か、幸いをもたらす守り神か。時代と場所により姿を変えながら、日本人の心に棲(す)み続けてきた「鬼」。鬼の原像を求めて、日本列島各地を旅する。

NHKドキュメンタリー - 新日本風土記「鬼」

番組が60分と長大サイズなので、この記事ではとりあえず「鬼についての総論」と「京都市内の風習」に関連したところのみ抜き出しておきます。

 

そもそも鬼ってなんだ?

鬼は隠れるという意味の”隠(おぬ)”という言葉が”鬼”に転化したらしいです。これは面白い!そもそも”隠れている存在”ということですね。そして古来、日本人は目に見えない不可解なものを”鬼”と捉え、おそれ敬ってきました。
番組では日本人が”鬼”と考えた具体例をいくつか挙げています。
 
  • 疫病や飢饉などの災いを鬼の仕業と考えた
ゆえに陰陽師・安倍晴明が呪術で鬼を退治しようとする。
 
  •  人知を超えた天変地異を鬼の仕業と考えた

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風神雷神図屏風
あの有名な国宝「風神雷神図屏風」では嵐や雷を引き起こす神々が鬼神として描かれている。ということは鬼も神も人知が及ばないという点で、同質の存在ということでしょうか。
 
  • 激しい恨みを抱いて死んでいった人も鬼と考えられた
平安時代、政争に破れ九州は太宰府に流された菅原道真も鬼の姿となって御所を襲ったと考えられた。日本では人間は神にもなる(徳川家康は東照大権現になって日光その他に祀られたように)が、鬼にもなるということ。神・鬼と人間の距離が近い。一神教のように神と人間が、完全に断絶されたようには捉えられていないですね。
 

徹底している!京都・「鬼門」の風習

”鬼”という観念と1200年もつきあってきた京都の人たち。鬼を封じるためのあらゆる手立てが発達しています。

京都御所(天皇の座所)を護る「鬼門除け」としての寺社仏閣

鬼は建物に対して東北から侵入するとされる。その東北の出入口が表鬼門。ゆえに京都御所の東北には鬼門除けとして延暦寺、赤山禅院、吉田神社が配された。また裏鬼門(表鬼門同様、忌み嫌われる。南西の方角)には壬生寺、城南宮、岩清水八幡宮が配された。

表鬼門の鬼門除けの一つ「赤山禅院」では御所を護るガードマン役として、屋根に置かれた猿のオブジェが紹介されていました。ちなみにこの場合の猿は神の使いだそうです。

この説はよく聞くんですが、自分としてはちょっと疑問に思うところもあります。例えば延暦寺は最初から鬼門除けとして比叡山に置かれたわけではないはず(最澄がお寺を開いたのは平安遷都よりも早いから)。また京都御所も、平安京が置かれて600年後に今の場所に置かれました。なので、今、鬼門除けとされている寺社仏閣と御所の位置関係も最初から今のような鬼門の位置にはなかった。京都御所が今の位置に移って以後、どこかの時点からか鬼門除けと呼ばれるようになったとと思われます。この辺りは研究の余地ありですね。

また京都御所そのものにも鬼門除けの仕掛けが。敷地の北東の角をとり、凹ませている。「鬼の角(つの)を取って退散させる」という意味が込められている。

御所の角が凹んでいるのは知っていましたが、鬼の角を取る、という意味が込められているのは知らなかった…。

 

”ふつう”のおうちの鬼門除け

京都ではいわゆる一般の方の住宅でも鬼門除けを施しています。家の敷地の東北の角に植木や玉砂利を置き邪鬼の侵入を防ぎます。
 
番組で紹介されていた鬼門除けは以下の通り。
  • 南天…”なんてん”の読みが”難を転じる”に通じるとして鬼門除けによく使われる

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南天

 

  • 柊(ひいらぎ)…トゲを鬼が嫌がって寄りつかないとされる。別名「鬼の目突き」

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番組では「嫁入りの時に母が持たしてくれた」と話す女性が紹介されてました。鬼門除けは嫁入り道具でもあるんですね。

  • 玉砂利 …番組で紹介されていたお宅では、月に2回、一日と十五日に神棚の塩で鬼門除けを清めるのが習わし
 

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玉砂利

そのお宅の奥様の言葉「おばあちゃんが、鬼門は大事にせえ、って鬼門に物やら置くと嫌がらはったから、物を置かないように思てました」

京都の人は目に見えないものを本当に大切にする。自分は若いころなら「こんな風習、科学的根拠もないし、どうでもいいんじゃないか」と思っていました。しかし実際に玉砂利を置いたり、それを清めたりすることで、安心を得られるならば立派に人の精神生活に”科学的に”役に立ってると思うようになりました。そうじゃなかったら1200年もの長い間、京都人が鬼門除けの風習を大切にし続けるはずがないとも。

 

鬼が活躍する節分

京都人は節分の時期、御所の周りの4つの寺社を回る「四方(よも)参りという風習があるそうです。番組のテロップが簡潔に説明してくれているので引いておきます。

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京都の人々は4つの寺社を巡る「四方(よも)参り」で鬼を祓(はら)う

ますば表鬼門 北東に位置する吉田神社

侵入してきた鬼たちを 呪術師が追い出す

南東に逃れた鬼たちを 八坂神社が待ち受ける

華やかな豆まきで 鬼は外 鬼は南西 裏鬼門へ

守るのは壬生寺 延命地蔵尊の力で鬼を祓う

ほうほうの体で逃げ出した鬼 北西にある北野天満宮

福の神と対決するも 結局は追われることに

鬼を祓って 都は福を迎える

自分は京都に住んでいたころ、吉田神社の節分祭にはよく行っていました。鬼を追い払う儀式を見るというよりは、数多くの屋台で飲み食いするためですが…。でもとても楽しいので、機会があればぜひ行ってみてください!

 

※京都の”歴史を感じる”散歩についての記事です。

www.rekishitantei.com

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