日本史のツボは気持ちいい。
- 歴史の面白さとは?
- 天皇の役割の変化〜王から天皇へ〜
- 「日本」ブランドを創生した3人の天皇
- 天武、持統…大陸の制度・文化を取り入れ国家体制を整えようとした
- 外圧の消滅が今の天皇イメージを生んだ?
- 系図もこうやって見ると面白い
- 最後に
歴史の面白さとは?
歴史の面白さは”なぜ…?”の疑問を考えるとき、そしてその答えをもらうときだ。
例えば、ずっと民衆から何百年も忘れ去られていた天皇という存在がなぜ幕末に、日本を束ねる象徴として担がれ始めたのか、のような疑問。それに対して信頼できる学者・研究者から筋の通った回答を聞かせられると、「お〜なるほど!」という喜びが身体を走る。まさに筋肉のコリをツボを押してもらってでほぐすような快感だ。「ん〜そこそこ、気持ちいい〜」みたいな。本書はそのような快感に満ち満ちている。つまりは面白い本です。
このブログでは、この本の中の自分が気持ち良かった日本史のツボを何回かに分けて紹介していこうと思います。
天皇の役割の変化〜王から天皇へ〜
天皇=三世紀ごろ現在の奈良県に出現し、周辺地域を支配していたヤマト王権の王。
世界史的に見れば「王」の共通した役割がある。
- 税の徴収
- 大規模な治水事業
- 法律の制定
- 軍を率いての戦争の遂行
- 神の言葉を民に伝え、神に五穀豊穣を願う
- 暦を定める
- 宮廷において芸術や文化を育む
天皇もかつては「王」としてこれらの役割を担っていたと考えるのが自然(←ここ重要だと思う)。
しかし時代を経るにつれ、その役割は限定されたものに。今、我々が天皇に対して抱く「日本の安寧を祈る神官」「雅な宮廷文化の主宰者」というイメージは「王」の権力を削がれた天皇家が、残された役割を洗練させたことによって作られた。
「日本」ブランドを創生した3人の天皇
3人の天皇とは…
- 天智天皇(626-671)
- 天武天皇(不明−686)
- 持統天皇(645-702)
「日本」ブランドが必要だった理由
663年の白村江の戦いで日本&百済は唐&新羅に大敗。日本国内に国防上の緊張高まる。同時に日本は”アイデンティティ・クライシス”に陥る。 そのため3人の天皇は日本独自のアイデンティティを生み出そうとする。
「日本」ブランドを生むために行ったこと
- 「大王」という呼称から「天皇」という呼称に変えた。
- 「古事記」(712)「日本書紀」(720)の編纂。天皇家と神話を直結させ、権威を確立する。
天武、持統…大陸の制度・文化を取り入れ国家体制を整えようとした
律令制を導入(「大宝律令」701)。土地はすべて天皇のものとする公地公民制を敷いた 。
しかし…
天皇家が押し進めた「律令制」は、実際にそれに基づいて統治されたというよりも、国の結束を固めるための「ヴィジョン」「努力目標」。公地公民制も日本列島で実際に行われていたとは考えにくい。
外圧の消滅が今の天皇イメージを生んだ?
755年〜763年まで続いた中国の「安史の乱」で、唐が著しく国力を衰退させ「外圧」が弱まった。ヤマト朝廷は弛緩し始め、「努力目標」だった律令も維持する必要がなくなり「公地公民」の原則に反する私有地=荘園もどんどん増えていく。こうして律令制は崩壊していく。
天皇も自ら政務をとる勇ましい「王」から宮中に籠り、雅な存在へと変質する。 894年には遣唐使が廃止。これはもう大陸の制度・文化を積極的に吸収する意欲を失ったことを示す。この後、平安時代を通じて日本は200年以上平和な時代に入り、天皇と朝廷は和歌や物語文学に代表される国風文化を高度に洗練させていく。我々が抱く天皇のイメージもこの時期に形成された。
系図もこうやって見ると面白い
天皇が「王」だった時代…第26代継体〜第36代孝徳、第34代舒明〜第48代称徳までの時代などは皇子たちが血なまぐさい権力闘争を繰り返した。その闘争の中でも名高いのは壬申の乱(672)。
その権力闘争が激しいころの系図は継承が安定せず、横に広がりやすい。
一方、天皇の位が闘争の対象にならなくなる戦国〜江戸になると系図はタテ一直線になる。
最後に
自分たちが高校生の頃(もう30年近くも前のことだが)よりも日本史を、よりグローバルヒストリーの中で捉えようとしている動きがあるのだろうか。中国の平和と動乱が日本の天皇の性格形成に影響しているというのはとても面白い。でも本文中での指摘されているのだが、幕末にも天皇という存在が急にクローズアップされて歴史の表舞台に登場してくるわけで、日本国の危機は天皇という存在抜きにしては語れないのかもしれない。現憲法下のような形でないにせよ、古来から天皇は日本の象徴だったのかも。
※感想②はこちら。日本の宗教についてまとめています。
※白村江の戦いを民衆の視点から見てみると…という内容の記事です。
※数々の歴史に関する著作を発表されている出口治明さんの文藝春秋の談話についての記事。「日本」という国号も中国との緊張関係の中で考察されています。