車窓の風景から地学を学ぶ。
日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語 (ブルーバックス)
- 作者: 山崎晴雄,久保純子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/01/18
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (3件) を見る
東北・鉄道の旅は景色に変化がない?
「日本列島100万年史」(ブルーバックス)という本を読んでいて面白い記述に出会った。
北上する(東北本線の)電車の車窓から景色を眺めると、両側には水田が広がり、右手(東側)には低くなだらかな山地が、左手(西側)にはやや高い山地が、延々と何時間も続くことに気づくでしょう。
東北地方を南北に走る東北本線では、景色にほとんど変化がありません。
なるほど…。景色にほとんど変化がない…。その視点はなかったな、と。
この記述を目にしたあと、実際に東京から秋田への出張があったので、東北本線(在来線)ではないが、東北新幹線に乗ってその景色の移り変わりを確かめてやろうと考えた。東北新幹線も大きく見れば東北本線とほぼ平行して走っている。大きく地形を確認するには問題ないと思う。
実際に景観を確かめてみた
埼玉・大宮までは関東平野に建物びっしりの首都圏の街並みが続くが、それ以降は景色がだんだん鄙(ひな)びてくる。そして宇都宮の手前くらいからは西側の遠くに山並みが見えるようになる(一枚目の写真の山々はおそらく日光)
それ以降は基本的に「新幹線が走る部分は低地で水田・人家」そして「遠く西側にそれほど高くはない山が見える」というパターンが確かに続く(その日の座席の関係で東側の景色はチェックできていないが)。
実は、「日本列島100万年史」によれば鉄道は東北の中央低地と言われる部分を走っているという。
Googleマップで見てみると、鉄道(この地図では東北新幹線)が山地と山地の間を通されているのがよく分かる。
本の中にある断面図だとこの通り。
新幹線の東側は「北上山地(茨城・福島辺りでは阿武隈山地)」、西側は「奥羽山脈」が続いている。その間の”谷”めいた地形に鉄道は敷かれているというわけ。
どうして景観が変わらないの?
ではなぜそんな山、谷、山みたいな地形が生まれたのか。それは「太平洋プレートが日本列島の下に潜り込んでいるため、大地にシワが寄るから」だそうだ。本の中に分かりやすい図があった。
本の図見れば分かるように東北日本には、東側から太平洋プレートが本州に対してほぼ直角に沈み込んでいる(図の「日本海溝」の右側が太平洋プレート)。なのでシワも列島に対して平行に生まれることになり、そのシワに沿ってできた低地を鉄道は走ってゆく。ゆえに何百キロもさして景観(地形)が変わらない旅になる。
東北新幹線は”大地のシワ”の中を走っているんだ…と思うと、そのシワを作ったはるか東の海の底の太平洋プレートと日本海溝のことがしのばれて何だか面白い。
ちなみに盛岡から秋田新幹線車両が切り離され、秋田へ向かう西向きのルートに入ってしばらくすると、周囲は一気に山深くなる。
大地に出来たシワと秋田新幹線が直交し始めるためだ。車窓に山が立ちはだかり、川も深く土地を削っている。はるか昔から東北の旅は「南北移動はラク、東西移動はタイヘン」だったんだろうな…。
お尻の下の太平洋プレート
ちなみに、東北地方の火山はその東北新幹線が走る中央低地より西側(奥羽山脈側)にしかない(東側の山地には火山はない)。
それも太平洋プレートの構造で説明できる。「日本列島100万年史」の簡潔な説明を引いておきます。
海洋プレートの沈み込み深度が、マグマが生成される地下100キロメートルに達すると火山ができます。つまり奥羽山脈より東に火山がないのは、プレートの沈みがまだ浅く、火山ができる条件が揃わないからだと説明がつきます。
自分がのっている新幹線の座席のはるか地下深くに沈みこんでいる太平洋プレート。しかしまだ深さは100キロには到達していない。プレートの深度が100キロを超えるのはもっと東側の地点なんだなあ…。そんな妄想を膨らませる旅も悪くない。
補足:日本最長の国道はトンネル少なし!
東北本州のシワの合間(中央低地)をゆく鉄道。同じ箇所を東京・日本橋と青森市を結ぶ国道4号線も走っている。4号線は純粋な陸上区間だけなら日本最長の国道だ(836.7km)。
※海上部分まで含めると58号線が最長(鹿児島市~那覇市。なんと海上部分も国道指定を受けている道路があるのだ。これも驚きだが)。
これだけ長い国道4号なのになんとトンネルはたった4つしかないらしい。また山地が多いイメージの東北だが、4号線の最高地点の標高はたった458m。これらの事実もそのルートとなっている東北の中央低地がいかに平坦であるかの証左なのではないだろうか。
※この国道4号に関してはこちらを参考にしました。
国道の謎 思わず訪ねてみたくなる「酷道・珍道」大全 (イースト新書Q)
- 作者: 風来堂
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2018/05/10
- メディア: 新書
- この商品を含むブログを見る
歴史や文化、グルメに美しい景色…。旅とともに楽しみたい要素はいくつもあるけれど地学も確実のそのラインナップに入るなあと思う。
※高低差で言うと、東北本線よりも常磐線の方がさらに平坦らしいです。
※東京の地形に合わせた鉄道アートの記事です。