1時間で「地方活性化」についての必須知識が手に入る。
- 厳しい秋田県の現状
- マンガで「地方活性化」(の真実)を説く
- 「にぎわい」なのか「にぎやかし」なのか。
- 歴史・記憶こそ地方の個性であり、活性化の前提条件
- 結論:地域活性化はその地域に住むひとりひとりにかかっている
- このマンガに書かれていることを常識に
厳しい秋田県の現状
最近、仕事で秋田県に出張することが多い。それで秋田についていろいろ調べているのだが、秋田は将来厳しくなっていく一方のニッポンの縮図というのが実感を持ってわかるようになった。
詳しくは下記の記事を見ていただきたいが、秋田県は…
- 都道府県別日本人の人口増加率(2017年1月1日現在)全国ワースト1位(-1.34%)
- 都道府県別出生率(2016年)全国ワースト1位(5.6)
- 都道府県別 高齢化率(2016年)全国1位(34.7%)
といったように、衰退していく地方に現われる兆候がトリプルに揃っているのだ。
しかも2018年3月30日のNHKニュースでは将来の厳しい人口予測も伝えていた。
人口以外の2045年の推計をみますと、65歳以上の高齢者の割合、「高齢化率」は50.1%と、全国の36.8%を大きく上回り、全国で唯一、高齢者が人口の半数を超えると推計されています。
2045年には秋田県の人口の半分が高齢者となるのである。このニュースは秋田県民の皆さんも深刻に受け止めたようで、出張で会う人、会う人みな「厳しい…」とおっしゃっていた。中には「人口の半分が高齢者となった県でどうやって街の発展ということを考えればいいんだ…」とため息を漏らす方もいた。
マンガで「地方活性化」(の真実)を説く
そんなふうに秋田県を調べていくうちに見つけたのが今回の記事で取り上げているマンガ「地方は活性化するか否か」。そのままズバリのタイトルだが、マンガの絵柄・キャラクターはとてもほのぼのとしていてとっつきやすい。
作者は秋田市出身、秋田市在住の こばやしたけし さん。あとがきの表現を引用させてもらうと
こうした(地方活性化の)テーマをマンガで描き始めたきっかけは、ここ数年、新聞やテレビ、ネット等で頻繁に出てくるワード「地域活性化」って何?という疑問を持ち始めたところからでした。
とある。地域が厳しい衰退に直面している秋田だから、「地方活性化」は誰もが考えてる(考えざるをえない)テーマなのだろう。しかし誰もが叫ぶその「地方活性化」はいかなる条件で、どうやれば成立するのか。そういう深い問いに正面から、誠実に向かい合った結果、生まれたのがこのマンガだ。
「にぎわい」なのか「にぎやかし」なのか。
マンガは衰退しつつある架空の地方都市「みのり市」を活気ある街にすべく、地元の女子高生たちが知恵を絞り、行動する中で、”真の”地方活性化はどうあるべきか、木ついていくというストーリー。
重要なポイントを列挙してみると…
- 「人が集まる場所を作ったり、イベントをやったりする→街がとりあえずにぎやかになる」これは”にぎわい”ではなく単なる”にぎやかし”。
- カネをかけて人が集まる場所を作ったり、イベントをやったりしてにぎわいをつくる(×)のではなく、にぎわいからカネを作らなければならない(〇)
- 「施設を作る」「イベントをやる」は活性化の手段であって目的ではない。
- 地域の活性化とは「地域経済の活性化」である。
- 「にぎわいでカネを作る」には「イベントがなくても人が集える場所が必要」→地方におけるその場所とは郊外の大型ショッピングセンター。
- 地域活性化にはビジネス感覚が必要。「会議に参加するだけ」「補助金でとりあえずイベントをやるだけ」「他の地域の事例(ゆるキャラなど)を安易に真似るだけ」「ちょっと叩かれるとすぐやめる」「HP・SNSアカウントを作っただけで継続しない」などすべてNG。
これらのテーゼは「確かにそうだろう」と思うことばかり。しかし認識・理解できることと実際に行動することは別で、「分かっちゃいるけどそうはできない」という自治体が大半な気がする。カリスマ的な首長がいたり、住民主体で正しい行動が取られたり、民間企業がシャープな動きを見せてその「認識・理解と行動の間にある壁」を乗り越えられた地域だけが、実際に活性化への動きを見せるのだろう。
歴史・記憶こそ地方の個性であり、活性化の前提条件
登場人物からはこのような内容のセリフも語られる。
街の本当の姿はそこに住む人々の暮らしや文化・歴史といった「街の記憶」とつながりながら「創られていくもの」
自分はこれを読んで「ファスト風土化する日本」(三浦展著)という新書を思い出した。「日本の地方(特に国道などロードサイド沿い)がチェーン店の乱立でどこも同じ風景になりつつある。もともと各地域はそれぞれの固有の歴史を持っておりそれが地方の魅力になっていたのだが、今や失われつつある」という内容のもの。やはり地方活性化を考える者はその地域の歴史・人々の記憶を考えなければいけない、と改めて思った。
結論:地域活性化はその地域に住むひとりひとりにかかっている
まあそりゃそうだろ、というアタリマエの結論で本書は結ばれている。しかしこれを実現するための小さな一歩もちゃんと説かれている。それはまず「その地域について知ること」。知ることで先ほどあげた地域の歴史にも触れることができるし、土地の課題も見えてくる。そして「人とつながること」。人とつながって楽しそうな雰囲気を醸し出すことで、同じ志を持つものが集まってくるとのが大切だという。地方の衰退を嘆いていても始まらない。このような小さな一歩をどれだけ多くの人が、高い熱量を持って踏み出せるかで地方活性化の成否は決まるのだろうと思った。
このマンガに書かれていることを常識に
このマンガに説かれていることは、きっと深奥で難しい論理ではない。おそらく地方活性化について書かれている書籍や大学の授業などでは常識の範疇に入ることではないだろうか。
地方活性化の専門家として著名であり、常に厳しくも的を得た発言をされることで知られる木下斉さんの発言とも共通することが多い。
上の世代が若い世代にさせたい仕事だと、そりゃブラック前提になるからやらないよね。新たな仕事と、それをもとにしたライフスタイルというあたりの再設計をやると、人材も集まってくる。地方の有力企業みていると分かる... #NewsPicks https://t.co/feTYvnXy1v
— 木下斉/HitoshiKinoshita (@shoutengai) 2018年4月19日
しかしその常識的なことさえ日本の各地域でいまだ共有されないということがいろんな間違った活性化策がはびこる原因な気がする。
正しい知識を得ること。そしてその知識に基づいて行動すること。そのためのキッカケとしてこのマンガは優れた啓蒙書だと思った。
※木下斉さんのトークイベントの感想を書いています。
※最近、地方活性化に関してよく話題になる「関係人口」についての本です。