歴史探偵

趣味の歴史、地理ネタを書きまくろうと思っていたら、仕事柄どうしてもTVの記事が多くなる今日この頃…

最高講義!『法華経』が誕生するまで~NHK「100分de名著 法華経第1回」から〜

『法華経』が世に出てきた理由が最高によく分かった!

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仏教の合理性に惹かれる

仏教というものにとても興味がある。

自分は修行しているわけでもないし、僧侶でもないけれど、仏教の「自分の心の苦しみは、自分の心・考え方が生み出している」という考え方(ものすご~~~~くおおざっぱに言っています)は合理的というかとても納得できる。

キリスト教やイスラム教みたいにどこかに超越的な神様がいて、そういう存在を信仰したり、そういう存在に帰依したり…というのはどこか自分の心にそぐわない、納得できない気がしてしまう(もちろん、そういう宗教を信仰をしている人を否定するわけではないです。あくまでも自分自身の心の問題)。

しかしその点、仏教は、何か特定の存在に帰依するというより、「まずは自分の心をととのえよう」というもので、信仰よりどちらかと自分が生きやすくなるための実践的な”考え方・行動の指針”のように思う。なので折に触れて仏教の解説書の類を読んで勉強したくなるし、ほんと言うと座禅を組みに寺にも行ってみたい(まだ行ってないけど)。

そんなふうに仏教に関心のある自分なので、NHK100分で名著で法華経を取り上げると聞いたときとても楽しみにしていた。

実際に番組を見てみると…これが面白かった!釈尊(お釈迦さま)時代から法華経誕生まで(釈尊が亡くなって500年後)の仏教思想の変遷が流れるように解説されていて、するするするっとアタマに入ってきた。これは良かった。最高講義でした。

今回は(番組の一部ではありますが)法華経誕生までの仏教の変容についてポイントをしぼってまとめておきたいと思います。またこの番組のテキストからも内容を一部補っています。番組と合わせて読むと理解が深まると思う。

法華経 2018年4月 (100分 de 名著)

法華経 2018年4月 (100分 de 名著)

 

 

ちなみに出演者は以下の方々。

  • MC:伊集院光、島津有理子アナウンサー
  • 解説:植木雅俊(仏教思想研究家)

植木雅俊さんは67歳。在野の研究者らしいのだが、40歳でサンスクリット語を学び始めて、法華経の現代語訳も完成させたらしい。キャリアの最初からガチガチの仏教研究者じゃなかったがゆえに、一般の方にも分かりやすい語り口を身につけられたのだろうか。それほどの良い講義でした。また笑顔も素敵で、謙虚なお人柄とお見受けした

 

法華経ってどんなお経?

法華経は「諸経の王」と言われる。それは法華経が「皆成仏道(かいじょうぶつどう)」つまり、あらゆる人が仏になれる(=成仏できる=覚りがひらける=この世の苦しみから逃れられる)と説いたから。

 

法華経の誕生と伝来

法華経は1世紀末~3世紀初頭、インドの北西部で完成したとされる。日本には飛鳥時代(6世紀頃)伝わった。

インド・サンスクリット語で書かれた経典→鳩摩羅什(くまらじゅう)(現在の中国新疆ウイグル自治区の僧)によって漢訳(中国語訳)→その漢語の音読みが日本に伝わった。

これに関して、植木さんは上記テキストの中で「日本では、お経は漢訳の音読みという形で広まりました。ですからほとんどの人にとって意味は分からない」と述べておられる。

(自分の感想)確かに日本ではお経って、お寺に座って意味も分からない音を呪文かおまじないのように聞くイメージがある。もっと物語やストーリーが分かればお経の時間がドキドキワクワク、ドラマチックな体験になるかもしれない。でも日本人は日本語で聞くとダメなのかもしれないな…。わけも分からない呪文だから神妙に聞こうという気持ちになるのか。

 

法華経の舞台

法華経はお釈迦さまが弟子の教えを説いて聞かせる、という体裁をとる。最初は霊鷲山(りょうじゅせん インド・ビハール州というところにある高さ5~600mの山)で説く。半ばで空中(虚空)から説く。最後にまた霊鷲山に戻って来る。

 

法華経誕生までの背景

法華経誕生までの背景・歴史を知ると、法華経の理解もグッと深まる。そこでざっくりインド仏教概略史を。

原始仏教(初期仏教)の時代

お釈迦さまがまだ生きているころ(植木さんの師匠である仏教の大学者・中村元氏によれば紀元前463~前383)。および直弟子がまだ生きているころをさす。覚りは「まのあたり即時に実現され、時を要しない法」とされていた。つまり何度も何度も生まれ変わって(輪廻)修行する必要はなく、今すぐあなたは覚ることができる、という即身(そくしん)成仏、一生(いっしょう)成仏が説かれていた。

紀元前3世紀末まで

説一切有部(せついっさいうぶ)という部派が力を持つ。権威主義的で資金も豊富であり、後に「小乗仏教」として批判される部派。

紀元前2世紀ごろ

「覚りが確定した人」を意味する「菩薩」の概念が現れる。これは「覚りを得る前、ブッダになる前の釈尊」を意味するものとして、小乗仏教が発明した。
(この「菩薩」という概念が発明された、というのが面白い)「あれだけ偉大な釈尊なのだから、過去にはきっとはるかな時間をかけて修行されたに違いない」という思いが小乗仏教の人たちにはあった。そこで仏になることは確定したが、まだ仏になっていない状態のお釈迦さまをさす言葉=菩薩が出来た。

紀元前後ごろ

菩薩という言葉の意味を塗り替える動きが興る。覚りを求める人はだれでも菩薩である」と考える大乗仏教が誕生した。小乗仏教では菩薩と呼べる存在はお釈迦さまと未来仏の弥勒だけだったが、それをあらゆる人に解放した。
大乗・小乗併存の時代になった。有名な2つの経典が成立した。大乗仏教側から小乗仏教の出家者たちを痛烈に批判する『般若経』が、そして紀元1~2世紀ごろには、保守的で権威主義的な部派仏教を糾弾する『維摩経』が成立。

紀元1世紀末~3世紀初頭

小乗と大乗の対立を包括し、すべてを救うことを主張するお経が成立。これが法華経。

 

お釈迦さま入滅後に起こったの5つの変化

お釈迦さまが亡くなった後、お釈迦さまの時代の仏教思想は変容していく。番組では5つのポイントに絞って解説していた。

1)修行の困難さの強調

お釈迦さまの時代の経典には「時間を要せずして得られる法」という言葉が何度も出てくる。つまり「この人生で覚りは得られる」と考えられてきた。

→部派仏教の時代になって、何度も生まれ変わらないと悟れない、と修行の困難さが強調されるようにあった。お釈迦さまの神格化。お釈迦さまを祭り上げることによって、ついでに自分たち出家者を、それに次ぐ者として権威づけた。

2)釈尊の超人化

お釈迦さまのことを弟子たちはゴータマさんと呼んでいた。

私をゴータマなどと呼ぶ輩は激しい苦しみに会うだろう、と言われるようになった。お釈迦さまが人間離れした存在に祭り上げられた。

3)覚りを得られる人の範囲を限定

原始仏教では、出家・在家、男女の別なく覚りを得ていた。

→菩薩・ブッダになれるのは釈尊一人だけ。出家者はブッダよりもワンランク下の「阿羅漢」にまでは到れる。女性は穢れていて成仏もできないと言い始める。もともとは平等思想だったのが権威主義的に。

4)仏弟子の範囲の変質

原始仏教では、出家・在家、男女の別なく「仏弟子」と呼ばれていた。

部派仏教では、在家者と女性を仏弟子の範疇から除外した。釈尊の十大弟子も全て出家者で男性となった。

5)聖地信仰の隆盛

お釈迦さまは「自らをたよりとして、他人をたよりとせず、法をよりどころとして、他のものによることなかれ」と語っていた。それが遺言だった。

→アショーカ王が「お釈迦さんの誕生、涅槃の場所」を巡礼する形態を生んだ。巡礼するが信仰であるかのようになってしまった。

 

大乗仏教の対応と『法華経』の成立

限られた人しか成仏できない、とする小乗仏教に対して「それはおかしいんじゃないか」と異議申し立てしたのが大乗仏教。菩薩を小乗仏教はお釈迦さんだけに限っていたが、在家、女性も含めた全ての人に解放した。

しかし大乗仏教は例外も設けた(ここがポイント!)。

例外は

  • 声聞…師についてその教えを聞いて学ぶ出家者
  • 独覚…師につかず単独で覚りを目指す(または聞いた)出家者

大乗仏教は声聞・独覚は「炒れる種子(たね)」。植物の種をフライパンで炒ったら、もうその種から芽が出ることはないように、これらの人は「成仏の芽」が炒られていて永久にブッダになれないと主張した。

このように小乗・大乗仏教それぞれに差別思想があった。両者の差別思想と対立を克服し、普遍的平等思想を打ち出すという課題を受けて成立したのが『法華経』。法華経に一貫しているのは「原始仏教の原点に還(かえ)れ」という主張。小乗・大乗それぞれの問題点を浮き彫りにし、それを乗り越えようとして生み出されたのが法華経なのである。

最後に

自分は今回の番組を見て、なぜ日本人に法華経ファン(それも熱烈な)が多いのが、その理由の一端が分かった気がした。最澄も、日蓮も、宮沢賢治も、石原莞爾もこの法華経の全てを包み込むような徹底した平等主義に惹かれたんじゃないかな…(専門家ではないのであくまで印象ですが) 。

番組後半の法華経のたとえ話もすごく面白かったのですが、また機会があればまとめてみようと思います。

 

※法華経とは”蓮”のお経。なぜ蓮が仏教のシンボルになったのか。実際の花を見ながら考えました。

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※「空気の研究」などメディアに関する名著を扱った回についても記事を書いています。よろしければ。

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