地図好きの人となら、この作品の鑑賞をしつつ何杯でもお酒が飲める。
港区にある東京都立中央図書館(地下鉄日比谷線広尾駅から徒歩8分)で『「東京」いまむかし〜鉄道網の発達による賑わいの変遷〜』という企画展示が開催中です。
※現在は終了しています。
明治以降の鉄道が何を目的に作られ、そのことが東京のどこに、どんな賑わいをもたらしたのか、という歴史的事実を、鉄道会社製作の観光案内鳥瞰図や、当図書館の蔵書とともにふりかえる企画。この企画自体も、初期の鉄道の実態や目的と現在のそれらが全然違うのを分かりやすく説明してくれていて、それはそれでたいへん興味深いのですが、この企画展示の冒頭に陳列されている「東京動脈」というアート作品が圧倒的に面白くてハートを鷲掴みにされてしまいました。
東京のJRと東京メトロ、都営地下鉄がどのような経路と高低差で敷設されているか、実際に細長いチューブで3D化して見せてくれているのです。
ただ実際は起伏があるはずの地面は、水平面に置き換えられています。なので、例えば渋谷駅を表参道方面に向かう東京メトロ銀座線の電車は、現実世界ではほとんど高低差なく、表参道がある台地の横っ腹を突き刺すように走っていくのですが、この展示では、銀座線は渋谷駅から出るとすぐ地面の下に潜るようなデザインになっています。
また高低差も実際の比率よりは強調されているらしいです。それでも実際に電車に乗っている時の風景や、東京の地形を思い浮かべながらこの展示を見ていると、我々の”高低差感覚”をきちんとなぞってくれているのがよく分かる。
東京の現実世界の地点となぞらえやすい箇所(路線)を幾つか写真で見てみます。
例えばこれは表参道の駅。
表参道の駅って、同じホームで東京メトロ銀座線と半蔵門線相互に乗り換えることができますよね。それがこの隣り合うオレンジのチューブと紫色のチューブで表現されている。また同駅で千代田線に乗ろうとするとさらにワンフロア下がる必要があります。その千代田線が緑のチューブ。緑のチューブはオレンジ&紫のチューブのさらに下を、それらとねじれの位置で交差するように走っています。現実の表参道駅、そのままです。
こちらの茶色い線は東京メトロ副都心線。
副都心線は2008年開業というごく最近の路線なので、地下の最も深いところを走っています。渋谷駅で副都心線乗ろうとすると、相当深くまで下がっていかねばならないので、この深さは副都心線を通勤に使っている人は日々感じているはず。その面倒くささがしっかりと視覚化されています。
地下鉄は原則、古い路線ほど地面に近い。新しい路線を建設しようとすると、地面付近は既に路線が敷設されているので、そこを避けようとしてより深い部分を掘らざるを得なくなるからです。なので一番古い地下鉄である銀座線(昭和初期に開通)はほんとに地面からの距離はわずか。だいたいどの駅も電車を降りてから地上に出るまでの階段が非常に短い。どの駅も深い階段・エスカレーターを使わないとたどり着けない大江戸線や副都心線とは同じ地下鉄でも大違いです。
もう一つ。こちらは東京駅のJR中央線。
写真の中央部の高い位置にある濃いオレンジのチューブが中央線。北陸(長野)新幹線の東京駅乗り入れのためのスペースを生み出すため、中央線は高架になりました(1995年)。その高架がオレンジのチューブの高さで表現されています。
これは中央線のホームからエスカレーターでコンコースに降りてゆく際に自分が撮った写真です。かなりの高低差があるのがお分かりいただけるでしょうか。
東京の鉄道は地下にも、空にもその”生息領域”を広げているんですねえ。
この作品、制作したのは現代アーティストの栗山貴嗣氏。こちらが現場で展示されていたプロフィールです。
栗山氏は仮想世界では得られない「実物ならではの圧倒感」に興味があるとのこと。その言葉通りの”圧倒感”を感じさせる作品でした。
「東北新幹線からの車窓の風景にはあまり変化がない?なぜ?」という記事です。