歴史探偵

趣味の歴史、地理ネタを中心にカルチャー全般、グルメについて書いています。

"西郷どん"の遺した言葉と落合陽一

変革期の偉人の思想は似通っているのかも

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100分de名著「南洲翁遺訓」第一回を見る。

 

講師役は日本大学教授の先崎彰容(せんざき・あきなか)さん(いかにも倫理や哲学を専攻されてそうな理知的な名前)。先崎さんはNHK「ニッポンのジレンマ」で何度か拝見している。"あんまり軽口は叩けないんです…申し訳ない"といった感じのお人柄。でも誠実に自分の思想や時代を語ります、といった態度に好感を持っていた。子どもの大学のゼミの先生だったらありがたいたろうな、と思うタイプだ。

 

さて番組テーマの「南洲翁遺訓」である。南洲とは西郷隆盛の尊称だという。つまり西郷隆盛という翁(=男の老人)が残した訓示といった意味。

 

今回の100分de名著の面白いと思うのは、この本を軸に西郷の"思想"に注目したところ。西郷って徹頭徹尾"行動の人"というイメージがあったので、確かに、思想としては何を考えていたのか、とは面白い企画だと思う。また逆に"幕末の思想"というと、すぐ思いつくのは尊王思想の水戸学とか、吉田松陰だし。うん、西郷×思想、意外性があってすごくいい。

 

さて、その西郷が明治維新という大変革期に何を考えていたのか。

 

番組では「南洲翁遺訓」を現代語訳している。そこから引用させてもらうと…

 

欧米各国の制度を採用して日本を開明の域に進めようとするなら、それよりも先にしなければならないことがある。

まず日本がその基本(国柄)を確定して、徳を持ってそれを支えるようにすることである。

そのうえで、日本に見合った長所を各国の制度のうちから選びとって採用する。それも急がないなことが重要である。

 

要するに、欧米先進国に追いつけ、追い越せとシャカリキになる前にやるべきことがあるだろう。日本の国が何によって成り立っているか、しっかりと考えたうえで、日本の国の性格によく合った各国の制度を取り入れろ、と西郷は言っている。

 

瞬時に「どこかで似たような考え、聞いたなあ」と思った。あれだ!落合陽一さんの近著のまえがきだ。

 

落合さんと言えば”現代の魔法使い”と言われ、アカデミズムやアートやビジネスの領域で超人的に活躍している人。自分はNHK「ニッポンのジレンマ」を見てがぜん興味を惹かれ、著書「超AI時代の生存戦略」 を読んで、「こんなにシャープに未来を見通す人いるのか!」くらいの衝撃を受けて、以来大ファンになった。

 

その落合さんの近著「日本再興戦略」のまえがき部分がNewsPicksの有料記事で配信されていた。そこに書かれていることが、実に西郷の言葉と重なるのです。少し落合さんの文章を引用してみると…

 

明治維新では、主に欧州型を手本にして、1945年以降は、米国主導で、戦勝国型を手本にして国をつくってきました。この欧州型と米国型が合わさって、「欧米」という概念になったわけですが、それをもう一度見直してみるのも『日本再興戦略』の趣旨です。

われわれは今、デザインにしても教育にしても、あまつさえ効果不明な健康法すらも無秩序に「日本はだめで、何々に見習え」と言うばかりで、考え方の基軸がありません。

われわれはいったい何を見習ってきて、何を見習っていないのか。それを正確に把握した上で、今後勃興するテクノロジーとの親和性を考えていかないと、日本を再興することはできません。

…西郷どんの言葉にそっくりだ。

現代は21世紀の大変革期。AI、ブロックチェーン、自動運転等々、次々と新しいテクノロジーが出現し、世の中の変化のスピードはものすごいことになってきている。日本が先進国から脱落する恐れも…。そんな時代には、盲目的に外国を見習うよりもまずは日本が育ててきた強みを把握しないと日本を再興することはできないと落合さんは言っている。まずは自分の足元を見ろ、と。

 

変革期に登場する偉人の思想の形ってやはり似通ってくるのだろうか。

 

西郷さんは書物の前に座っている学者ではなく、薩摩を率いて幕末の争乱を生き抜き、倒幕を成し遂げた”行動の人”。落合さんも学者でありつつ、何よりも”行動”を重視する人。研究・教育をやりながらアート作品も作り会社も経営している。世間と実地に格闘しながらモノを考える人の思想は似てくるということなのだろうか。いずれにせよ不思議な符合だ。

 

 

自分がファンである人の思想と近しい考え方をする西郷隆盛。じわじわ気になってきた。100分de名著の続きが楽しみだ。