歴史探偵

趣味の歴史、地理ネタを書きまくろうと思っていたら、仕事柄どうしてもTVの記事が多くなる今日この頃…

本「知性は死なないー平成の鬱をこえて」・感想①〜知性が敗北する時代〜

かつてNHK「ニッポンのジレンマ」で唸るほど賢いな、と思った人がいた。

知性は死なない 平成の鬱をこえて

知性は死なない 平成の鬱をこえて

 

 

自分の”知的ヒーロー”の待望の著作

普段、常識に思っていることをひっくり返す見立てを述べたり、知らず知らずのうちに前提にしてしまっている条件を、鋭く指摘し、明らかにしてくれる人にぼくらは知性を感じる。

NHKニッポンのジレンマでそういう第一級の知性を見せつけてくれた人が歴史学者の與那覇潤さんだった。かなり売れたという著書の「中国化する日本」ももちろん買って読んだ。そもそも”中国化する”というタイトルの表現からしておおいに疑問を誘って魅力的だ。「え、西洋化じゃなくて中国化…?」。そんな第一印象を持たせておいて最新の歴史学の成果をもとに中国化する日本について説得的に論じてみせる。面白くて一気に快読した(本の中身については異論もあったようですが)。

しかしそんな自分にとっては知的ヒーローだった與那覇さんをここ数年、メディアで全然見なくなり、フォローしていたツイッターでも発言されないなあ、と思っていたら、なんとうつ病を患って、大学を休職されていらっしゃった(その後、大学を離職された)。そういうお辛い状況にあった與那覇さんが、久しぶりの本を出されるという。れは買わねばなるまいと発売とほぼ同時に手に入れた。

読んでみると期待に違わぬ面白さ。通俗的なモノの見方に、ハッするような逆説・気づきをぶつける。自分自身のうつ病に対してもクリアな知性のレンズを向け、淡々と分析してみせる。まさに自分の期待していた與那覇節。與那覇さんでないと書けない本だと思った。

深く脳に刻んでおきたい知的刺激に満ち満ちた内容だったので、何回かに分けて(自分の備忘録も兼ねて)しっかりとレビューしたいと思います。

 

「平成時代」=「戦後日本の長い黄昏」

冒頭の「はじめに」の箇所で與那覇さんは平成時代はのちに「戦後日本の長い黄昏」としてふり返られることになるのではないか、述べる。それは戦後自明とされてきた日本社会の特徴が、その限界を露呈し、自明のものではなくなったからだと言う。

具体的に戦後自明とされてきた日本の特徴としては

  • 平和憲法の理想 
  • 自民党の単独一党支配
  • 経済成長
  • (終身雇用等の)日本型雇用慣行
  • アジア最先進国と言う誇り

が挙げられている。確かにこれら日本の強みとされていたことは、平成になって徐々にその輝きを失い、まさに黄昏のごとくその存在の輪郭が暗くぼやけ始めている。経済に限って言えば「失われた20(30?)年」とも表現される事態だ。

 

混迷の時代に何もなし得ない知性

自明の価値がゆらぐ時代に必要とされるべき知性は、この事態にどう立ち向かったか。與那覇さんは

ほとんどの学者のとなえてきてことは、たんに実現しないか、実現した結果まちがいがわかってしまった。

と言い切る。

本の中で挙げられている例を抜粋すると…

例1)安倍政権が「集団自衛権は行使できる」という新解釈を打ち出すと多くの憲法学者は強硬に批判したが、実際は安保法制は成立し、憲法学会のほうが社会的信用を失った。

例2)平成のはじめ、政治学者は小選挙区制実施による「政権交代可能な二大政党制」への移行を訴えていたが、実際に、小選挙区制が実施されると、昭和以上に自民党一強が実現してしまった

などである(他にも例は挙げられています)。

しかしこのように知性が知性の可能性を発揮しようとした結果、現実が一層望まれない事態となるのは何も日本だけのことではない。移民排斥が主調となった欧州や、排外主義が顕著となったトランプのアメリカにおいても、戦後知識人たちが思い描いてきた理想が後退を余儀無くされている。

 

知性そのものに眼差しを向ける”知性”

なぜこのように「知性はないがしろにされ、敗北していったのか」。與那覇さんはその理由を「今までの知性のあり方そのものが間違っていたからではないか」と従来の”知性観”に疑問を呈す。そして知性によって”知性を再定義”し”知性を再起動”させようとする。

與那覇さん自身の表現を借りるとこうだ。

多くの人々が考える「知性」のイメージや、それを動かす「能力」を把握する方法自体に、大きな見落としがあったのではないか。逆にいえば、知性というもののとらえかた、能力のあつかいかたを更新することで、私たちはもう一度、達成しそこねた変革をやりなおせるのではないかー。

與那覇さんがそういう”知性の自己言及的な発想”に至った背景には、ご自身の精神的な病の経験があり、そのことがこの書を一層非凡なものにしている。知性に反省を迫る”メタ知性”を駆動させているのは、言わば與那覇さんの強烈な実存的動機なのである。そのことが詳述されている第6章は実に感動的。またこのブログのシリーズで記事にしたいと思う。

 

 ※感想ブログその②です。

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