歴史探偵

趣味の歴史、地理ネタを中心にカルチャー全般、グルメについて書いています。

ブラタモリ有馬温泉・感想〜地球の贈り物は600万年を越えて〜

”ジオ的(地学的)な地球の遺産”と”人の営み”のコラボにより名湯が生まれた。

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冒頭のタモリさんと近江アナのトーク。特に何かのネタを拾うわけでもなく、極めてあっさりと歩き始める。今回はこの場面が盛り上がらなかったのか、それとも他のシーンが面白かったのでここには尺を使わなかったのか。

 

有馬温泉の「金の湯」に到着。さすがタモリさん、入り口ののれんに記されている「有馬本温泉」の”本”に注目する。

もともとは (有馬温泉は)ここが最初だった?

 と。ただ番組上はそのタモリさんの気づきを広げるわけでもなく、進行していく。

 

余談ですが、地名に「本」とつくところは、やはり「もともとの町」とか「発祥の地」といった意味合いがあるらしい。局所的な例だが、池袋にも「池袋本町」と言う地名がある。今の人がイメージする池袋とはだいぶ隔たったところだ。でも江戸時代の池袋といえばそちらを指していたもよう。明治以後、池袋駅が現在のところに出来たので、今の駅周辺が池袋を代表するイメージになっていった。

 

さて、番組では「湯上がりタモカメ」登場。近江アナが軽く触れるが、タモリさんはさらりと受け流す。スタッフが面白いと思って仕掛けたことが、現場ではあまり盛り上がらなかったという典型か。

 

タモカメから今回のテーマが提示される。「有馬温泉 人気はなぜ冷めない?」。続いてすぐに専門家登場。専門家の紹介コメントは「風呂上がりのビールは一杯と決めている」。いいコメントだなあ。●●を研究して●●年、みたいな直截な表現でもなく、テーマから離れすぎた紹介でもない距離感が良かった。

 

金の湯の建物の中に入る。意外にもパネル展示の説明などをしっかり見せる。「ふつうこういうロケでは説明なんて長々見せないんだけどな…」と思っていたが、これはこれでのちの伏線であった。

 

浴場に入り、タモリさんと近江アナウンサーが実際にお湯に足を浸してみる。その後、江戸時代の絵図、温泉番付など出てきて説明が続く。この辺りはシーンの目的がカチっとは示されていないので、少々まどろっこしく、スロースタートな印象。絵図にあった「棒で叩く」とか実際に演出で遊んでみてもよかった気がした。 でも今回、スピード感に欠けていたのはここまでだけで、これ以降は密度の高いシーンが続いた。

 

金の湯の源泉が湧き出ている場所へ移動。途中、タモリさんが”ザ・関西弁のおっちゃん”に話しかけられる。

よう、宣伝しといてや!

いったいどこで何を宣伝すればいいのか全くわからないが、関西ローカルの旅番組ではよく見かける光景ではある。それにしてもタモリさんと関西弁のマッチしないこと!こういうのを見ていると、タモリさんは全国区のタレントではなくて”東京区”のタレントなのか、という気もしてくる。それとも逆か。関西が日本の中で特殊地域なのか?

 

ここの道ゆきも、割とゆるめな構成だな…と思って見ていた。しかし後から振り返ると、炭酸せいべいなど、のちのちのシーンへのフリとなっていた。道ゆきのシーンの最後では温泉成分に言及し、きちんと話の本筋に戻していて、編集の上手さを感じた。

 

天神泉源に到着すると、もう一人、専門家が登場。源泉のお湯を汲んでしばらく置いておくと、赤くなる現象についてタモリさんに謎かけ。タモリさんは「鉄が酸化するのでは」と即答した。専門家の方はタモリさんの博識ぶりに感心していたが、番組側はそこをことさら強調せずに進行した。ちょっと前まで、こういうシーンでは必ず「さすが!タモリさん!」みたいに持ち上げてて、少々しつこかったので、良くなったなあ、と思う。

 

鉄の保湿効果について説明したあと、バルブについている白い物質をタモリさんに触れさせて「塩」の話、さらに「炭酸」の話にも展開。泉源に到着してから、同じ場所で8分ほど滞在していた。しかも内容は情報性の高い説明ばかり。しかし、どの説明も具体的なブツ(鉄・塩・炭酸)をタモリさんが見て、触って、味わって…とした後に提示されているので、自分も飽きずに見ることができた。出演者を単なる説明の受け手とだけ使うのではなく、何かを伝えるための媒体として扱うのはやはり大事。

 

情報の内容そのものも面白い。鉄分、塩分、炭酸ガス、全て高い濃度で含まれている有馬温泉は世界的に珍しいというのは全然知らなかった。

 

成分豊富なお湯が湧く秘密を探るために「白水峡」という渓谷に向かう。酸化鉄のために赤くなった土、お湯の通り道になっている花崗岩の割れ目など、よくこんな一箇所で、地学的事象を観察できるスポットがあったなあ、と驚く。素晴らしい。

 

そしてここでタモリさんが、金言を吐いた。

待てよ。(温泉の)熱源は火山じゃないですよね。

火山じゃないとすると、相当深いところじゃないと熱水はできないですよね。

このタモリさんの発言をきっかけに、番組は地殻のさらに下にあるマントルの部分の説明に入っていく。こういうシーンの意味合いが変わるきっかけの発言を出演者からサラッと言ってくれると、本当にありがたい極めて自然に次の内容説明へと入っていける。タモリさんが疑問に思うことは、視聴者も疑問に思い始め、それを知りたい、と思う強い動機が生まれる。これが草彅さんのナレーションによって誘われると、視聴者は制作者の意図を感じて、少し覚めてしまう。

 

ここでその地下深くの構造について専門家による説明。同じ構図のCGの、2枚目にだけ必要な情報を足すという細かい工夫で非常にわかりやすくなっていた。有馬のお湯に、鉄も塩も炭酸も含まれる理由がよく分かる。「なるほど、だから、いいお湯なんだ…」みたいな。有馬温泉にとってもこれ以上のプロモーションはないだろう。

 

長い地球の歴史を閉じ込めたお湯のタイムカプセル、有馬温泉

 

シーン最後のナレーションに心から納得してしまう、構成・編集の見事なシーンだった。

 

続いては有馬温泉の人文歴史的な話。温泉街の真っ直ぐな道の発見から秀吉の話へ。「真っ直ぐな道といえば秀吉」というブラタモリファンにはお馴染みのテーゼを持ち出してこれるのは、歴史を積み重ねてきた番組ならではの強み。

 

続いて秀吉が作らせた浴槽の場面(江戸時代のお湯の入り方が”立ち湯”だったというウンチクが面白かった)から極楽泉源へ。

 

炭酸カルシウムが付着しているパイプを、何年に1度くらい変えるの?と現場の方に尋ねるタモリさん。現場の方が「4日です」と答えると

ええ! 4日にいっぺん変えるんですか?

と、きょうイチの驚きでリアクションしていた。ここのやりとりは台本だったんだろうか。制作陣としては、この「4日でパイプを交換する」という情報は絶対出したかったはずだが、これが現場の方が説明するのではなく、タモリさんからの質問で引き出されたのが気持ち良かった。有馬温泉と人の営みの物語が融合しつつあることを感じる。

 

最後は、炭酸せんべい。前半の道ゆきで登場していたのがここで生きてくる。神戸と言えば、明治以降の急激な西洋化の中で、居留地や六甲山の別荘などが作られた歴史を想う。その歴史が有馬温泉のせんべいからも感じられるとは。温泉と人との関わりをテーマにした回として、締めにふさわしいシーンだったと思う。

 

以前のブラタモリだと道後温泉の回も極めて面白かった。ジオ的なテーマの回だと必然、現場を歩き、現場のブツからストーリーを説き起こすので、手触り感があっていい。次回の鹿児島に桜島のジオ的要素は登場するのだろうか。今のところ大河・西郷どんも脱落せずに見れているので、楽しみに見たいと思う。