歴史探偵

趣味の歴史、地理ネタを中心にカルチャー全般、グルメについて書いています。

「サンカク」に参画してみた

「サンカク」って知っていますか。

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サンカクとは

「仕事を辞めずに、社外の経営や事業に触れることができる」という触れ込みで、会社員であるという立場はそのままに、他の企業の経営に関するディスカッションに参加できるというサービスです。運営会社はリクルートキャリア。当のサイトをのぞいてみると、ディスカッション参加者を求めている企業側の掲示板がズラリと表示される。

 

ディスカッション参加者を求める企業は、新規事業を目論むベンチャーが多い印象。でもサイバーエージェントとかLINEみたいな誰もが知っている大企業の名前のちらほら出てくる。ただ、トヨタとか朝日新聞とか戦後日本を代表するようなレガシーな企業は見当たらない(この2つの企業の名前を挙げたのには深い意味はないです。レガシーな企業という意味でパッと思いついただけ)。

サンカクに”参画する”には

サンカクのディスカッションに参加する手順としては

  1. facebookを通じてアカウントを取得、プロフィールに職歴や学歴、自己紹介等を記入
  2. 自分が興味惹かれる企業(案件)があったら、エントリーしてみる
  3. 相手方の企業も自分に興味を持ってくれたらメッセージが来て、アポ取りをし、実際にディスカッションする

 という流れになる。

 

自分は今、正直会社の中で今、現在「面白くて仕方がない!」というような仕事をしているわけではないし、目が回るほどの忙しさでもない。今のサラリーマンの立場のまま、他の企業のやっていることに触れさせてもらえるのは面白そうだぞ、という軽い気持ちでアカウントを取得。幾つかエントリーしてみた。

実際にエントリーしてみると

地域活性化のスタートアップ企業や知識・スキルをマーケットでやりとりする企業などとのマッチングは不成立。一方コワーキングスペースを運用している企業2社からメッセージをもらい、両社とアポも成立した。

 

そのうちの1社とは担当者から「まずはお話してみましょう」と言われ、実際に会ってみたら、先方がやっている事業を一方的に説明されて終わった。こちらの意見やアイデアを聞かれることは一切なかった。サンカクにおいては、ディスカッションへの正式な参加が確定すると、「○○さんのサンカクが確定しました!」と通知が来るが、この会社に関してはその通知もなかった。今にして思えばこちらが値踏みされていたのかもしれない。

 

これは完全な余談だが、相手の方はお一人で男性、年の功は50歳くらい。ものすごい学歴主義者で、「○○大(都内の中クラスくらいの私大)でさ~大手マスコミなんか行けるわけないじゃない」とか「人をアイデンティファイできるのなんて学歴くらいでしょう」とかスパッと言い放つ御仁だった。

 

今は、堀江さん(ホリエモンのように「大学なんて無駄でしょ」と主張する人が現れる時代だし、サンカクのような新しいサービスを使うのは「学歴なんかどうでもいい、仕事さえできれば」という人ばかりかと思っていたのでこれには意外だった。学歴を人物評価の第一基準にする人がいるのは分かってはいたが、ここまで何のてらいなく言ってしまえる人がいるとは…。それとも自分が世間知らずなだけか。

 

話が随分それた。

 

アポを入れたもう一社の方とは、アポの日にちょうど東京に大雪が降り、リスケする羽目になってしまった。そしてその後、連絡がない。カジュアルにサンカク体験するのは意外に難しい。

ついにサンカク成立!

実はもう一社メッセージをくれていて、アポも成立している会社があった。生物の骨格標本に”触る”博物館を構想している企業で、その展示企画、プロモーションについて議論できないか、という内容だった。
 
自分はイマドキの産業の代表であるITには全く詳しくないし、サンカクで募集の多い(気がする)案件の、広告やマーケティングもやったことがない。ただメディアの人間として難しいことや込み入ったことを分かりやすく伝えることに心を砕いてきたし、学術的な事柄を番組に仕立てる経験もそれなりにあるので、直感的にこの会社のニーズには応えられるかも、と思った。
 
お会いしたのは都内のコワーキングスペース(最近、ほんと多い)の一室。応対いただいたのは温和そうな男性お一人。
 
テーブルの上には生物の頭部の骨格標本が3つ並べてある。会話はクイズから始まった。「これ、何の生き物だと思います?」と言われ、ヒントをもらいながら回答する。どれも水辺の生き物だった。3月に報道解禁する予定の展示の標本だという。
 
社員はその男性お一人。元々国立の博物館で働いていたが、食えないのでサラリーマンになり事業会社でプロモーションのお仕事をされていた。しかし博物館勤務時代から現状の博物館の展示の方法については問題意識を持っていらっしゃったらしい。ただポンと展示するだけではなく、もっと標本を楽しんでもらい、知的好奇心をくすぐるやり方はないものか、と。
 
また日本の科学行政に対する危機意識もにじませていらっしゃった。とにかく今、日本では研究にお金が回らないらしい。先日京大iPS細胞研究所での不正論文事件に関しても「不正は悪いことは悪いが、任期付研究者は任期の間にとにかく結果を出さないといけない。その非常にキツいプレッシャーが事件の背景にあるのでは」とおっしゃっていた。
 
そこで自分はこの事業を通じて、企業の協賛や入場料等で資金を稼ぎ、それを研究者に還元したいのだという。そして研究者に思う存分研究をしてもらって、今度はその成果を、この事業に還元してもらう。そのサイクルを回して行きたいのだ、と。
 
すごい…と素直に感心してしまった。政府を批判してもっと研究にお金を入れろ!と言うだけのメディアや人はよく見るが、こんなふうに実際に行動を起こして会社まで起業する人がいるとは。
 
会社の中だけではこんな人にはなかなか会えないです。刺激を受ける。
 
さてその博物館だが、駅近の空き物件・空き店舗での移動博物館として構想しており
、昨年の秋に起業して以来、東京とその近郊でスポット的に標本を展示してきたらしい。直近では埼玉県川口市で一週間、「イルカと水の生き物展」と題して入場料100円で開催したという。
 
ディスカッションでは、今後の展示の方向性について、自分も、自分なりのアイデアを出してみた。
 
「歯が鋭い生物の標本を、刃物の名産地(岐阜県関市とか?)で展示してみるのはどうだろう」
「どっしりした骨格を持つ生物(ゾウとか)の標本を、ゼネコンの本社のロビーに飾ってもらう」みたいなアイデアだ。自らの強みを売り出したい地方や企業などがその存在のシンボルとして、生物標本を利用してもらう方法はないか、と考えたのだ。 
 
それにしてもこういう機会があると、自分は会社以外の場で何の価値を提供できるのだろうかと真剣に考えてしまう。否応無く自分の経験値や”強み”の棚卸しを迫られる。
 
あと番組タモリ倶楽部に売り込むのはどうだろう、と提案してみた。骨格標本をテーマに一本、番組を作ってもらうのだ。なんでもイルカの頭部は、見た目は左右対称だが、骨にしてしまうと、左右で非対称なのだそうだ。イルカが音を出すための器官に関係しているらしい。こういう役に立たないけど面白いウンチク、タモリさんは相当喜びそうな気がする。
 
バーなどの酒場で展示してみるのもいいのでは、と思った。ただ先方もそれを考えられたそうなのだが、飲食店で生物の標本を置くのは、衛生的にNGとお店の方に言われ、諦めたらしい。考えるだけではなく実際に行動してみると、現実っていろんなところにトラップが仕掛けられているのがよくわかる
 
そんなこんなで1時間余り、ディスカッションのような、おしゃべりのようなことをしてお別れした。イルカは川に生息している種(川にもイルカがいるのも知らなかったが)の方が原始的な形態をしている、とか、人間の背骨は生物全体の中でよほど特殊だ、といった生物学を巡るトリビアトークも面白かった。
 

サンカクで得られるもの

「サンカク」は何か金銭的な報酬を得られるというようなことではないけれど、普段考えないことを考えられる機会。今回ならば、日本の科学行政について、生物の進化について、日本人働き方のこと、自分の”強み”について…等々改めて考えた。この機会こそが最大の報酬なんだろうな。また面白そうな案件を見つけたらエントリーしてみようと思う。
 
サンカクのサイトを開くと、サンカク履歴に「1回」とあった。会社以外から評価をもらった気がして何だか嬉しかった。